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美雨  作者: 加藤無理
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能力発見

 美雨が十二歳の時。十五歳になった次姉の雪は裁縫と機織りで忙しくなった。十八歳になった雹兵衛には北隣の琴江村ことえむらにいる自作農の娘との縁談が決まった。嫁を迎えるのではなく婿入りだ。家庭に不満を持っていた雹兵衛は素直に縁談を喜んだ。


 雷助は身体の調子が良い時は草鞋や籠を作った。それを村の貧しい者に与えては農作業を手伝ってもらった。雨の時は近所の子ども達や文盲の大人に読み書き算盤を教える。両親と妻の仙は亡くなった祖父母の分まで更に勤勉に働いた。


 雷助と仙の娘の芯は四歳になり、父親と一緒にいるようになった。雷助が体調を崩すと看病したり、手に余ると家族や隣人を呼んだりしていた。


 美雨は両親と一緒に農作業を手伝うようになった。美雨に懐いていた蛇の雲右衛門は去年死んだ。美雨は祖父母に死なれた以上に泣いた。家族は大袈裟だと思ったが軽い同情で何も言わなかった。


 笛林村に嫁いだ風は盆に帰ってくるが、すぐに戻っていく。風の姑舅は厳しいが、風は特に反発せず、腰を低くしていた。二十歳になる風は去年に男の子を産んでいた。子どもに鯉太こいたと名付けた。


 鈴森村は不作の年がここ十年近くなかった。不思議に思った風は、

「神様は何故、この村を気に入っていらっしゃるのかな」

 と、母親に尋ねた。母親は、

「さぁ。信心深い人が多いからじゃないの」

 雪は、

「美雨が生まれた時は酷かったよね」

 父親は美雨に振り返る。美雨は玄関前で鯉太と芯と一緒に遊んでいる。かがんで馬になると鯉太と芯は両手で美雨の背中を押しながら飛び越える。三人とも楽しそうだ。客が来るのをそうしながら待っている。


 客が来ると両親は子ども達を部屋の隅に追いやるか家の裏に出して空間をとる。美雨は明らかに不満そうである。黙って聴く耳をたてている。


 盆の終わりの祭に父親は美雨に、

「何か不思議な夢を見る時があるか?」

 と、尋ねた。美雨は、

「別に」

 父親は更に、

「神様や仏様にちゃんと祈っているか?」

 美雨は心外そうに、

「爺ちゃんが厳しく言っていたじゃないか」

 母親や仙や雪が不思議そうに父親を見つめる。父親は普段は寡黙だ。だが父親は、

「明日、神様に小雨を降らしてくれとお願い出来るか?」

「どうしたの、あんた」

 母親が驚くと美雨は、

「やってみる」


 翌日。父親の希望通りに小雨が降った。美雨の家族は心底驚いた。美雨は当然のごとく、

「真面目に生きて一所懸命に願えば叶うものでしょ」


 父親と雷助はこの事を和尚と庄屋に伝えた。しかし二人とも笑いながら信じなかった。庄屋は、

「偶然だろうよ」

 和尚は、

「たった一人の女の子にそんな大きな力なんて無い」


 父親と雷助は村の者を集め、いつどれくらいの風雨が有れば有難いかを話し合った。村の者達は最初、そんな事を話しても天に唾を吐くような行為だと不審に思った。しかし勤勉な二人がいてくるので、答えていった。

「雪は辛いけれど無いと雪解け水が足りなくなるからな」

「風は苦手だけれど、無いと花粉が飛ばないし空気が淀む」

「日照りは嫌だけれど、御天道様の光が足りないと作物は育たない」

「空梅雨は嫌だな」

「家が崩れるような風は嫌だな」

「秋の初めの長雨も大事だな」

「虫の喜ぶ温かさと湿り気は駄目だ」

 年寄りと読み書き出来る若者が記録を読んで議論を深めた。雷助が書き留める。庄屋は、

「既に豊作続きなのだから、これ以上求めると罰が当たるぞ」

 と、不安がった。


 しかし父親と雷助がまとめた理想的な天気を美雨に伝えると、その通りになった。それを逐一庄屋や和尚に伝えると、二人は顔を真っ青にして信じ始めた。結果として例年より更なる豊作だった。

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