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美雨  作者: 加藤無理
22/33

新しい土地で

 江戸から遙か西側、九州の東側に位置する石見銀山。春頃に美雨達はやっとの思いで到着した。山の近くの街は非常に賑わっており、江戸に負けていない。


 美雨達はしばらくは代官所にある蔵の屋根裏に滞在することになった。その近くに家を建てたらそこに住むことになっている。


 美雨と箱三郎は荷解きを軽く済ませ、身支度を整えると、代官に会いに行った。代官は石見銀山を含むこの領地を幕府から任されている。


 代官は日頃多忙で疲労が取れないせいか顔色が青白い。仕事は銀山の管理だけでなく、民生安定から裁判まで幅広い。代官は不思議そうに美雨を睨みながら、

「本当に雨を降らせたり晴にさせたり出来るのか」

「その為にこちらまで参りました」

 美雨が答えると代官は腕を組み、

「ならば明日から雨を降らせてみよ」

 と、命じた。美雨は一度頭を下げると、

「かしこまりました」

 山に植えたばかりの苗木が枯れかかっているからであった。到着する前にその様子を美雨達も遠目で見ていた。銀山は計画的に採掘しており、時折しっかりと植林している。


 代官の命令通り、翌日は見事に雨が降った。どしゃ降りでも小雨でもない丁度良い程度の雨足である。特に苗木の有る所にしっかりと降っている。代官も鉱夫達も商人達も驚嘆した。雨は一日中降っていたが、二日目は洪水になる前に、そよ風が吹く晴れ間になった。


 代官は鉱夫達や商人達や植木屋達の話を聴きながら、その日に望む天気を美雨に伝えていく。美雨はその通りに願い、天気はその通りになった。日照り続きでも豪雨でもない絶妙な気候が続く。


 美雨を信用した代官は美雨達に世話係を紹介した。世話係は隠居した鉱夫の夫婦だった。夫婦は優しいので、まだ子どもの櫂四郎と重は二人になついて色々と話をせがんだ。夫婦は鉱山での苦労話や山の厳しさを語る。


 夏場は比較的曇りがちで坑内でも過ごしやすい。鉱夫達が休みの日にはハッキリした雨か、カンカン照りの晴れになる。


 四十歳になっても美雨は衰えることを知らない。それどころか銀山に興味を持った美雨は鉱夫達や植木屋達と一緒に働きたいと思った。それを伝えると代官は血相を変えて、

「奴らの仕事を甘く見るな!」

 と、怒った。美雨は、

「私は元々百姓です。女達も励んでいるではありませんか」

 植木屋や鉱夫の中には確かに女が何人かいた。しかし代官は、

「お前には御公儀からの仕事が有るだろう」

 仕方がないので美雨は引き下がった。


 箱三郎は代官の仕事を手伝った。問題が起きれば現場に駆けつけ当事者の話を聴いたり、裁きの時には発言者の言動を書き留めたり、領民達の案や要望をまとめて代官に伝えたり、代官の命令を広めたりした。代官は着々と言う通りに仕事をこなす箱三郎も信用した。


 十六歳になった春は代官の勧めで鉱夫達の親分の息子と祝言を挙げることになった。新しい夫は危険と隣り合わせの仕事柄、怒鳴る事が多いけれど、美雨の力を知っているので、春を丁重に扱った。美雨に神通力がなくても、春は武家の娘なのでぞんざいに扱うわけにはいかなかった。春は弟妹の世話をしてきたので家事はひと通り出来る。武家としての教育も受けている。夫と姑舅は素直に春を気に入った。


 両家は祝言をそれなりに華やかに祝った。春も結婚を素直に受け入れている。


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