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美雨  作者: 加藤無理
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幼い働き手

 美雨が満五歳になった時。次姉のゆきは八歳、次兄の雹兵衛ひょうべえは十一歳、長姉のかぜは十三歳、長兄の雷助らいすけは十六歳だった。


 雷助は西隣の鼓村つつみむらから来た水呑み百姓の娘のせんと春先に簡単な祝言を挙げた。仙は雷助に両親だけでなく厳しい祖父母がいる事に不安を抱いていた。弟妹達は着飾った仙を見ると歓声を挙げた。


 ここ二年は豊作続きだった。特に鈴森村は国一番の収量であった。庄屋も鼻高々だが、村の中の祠に祀られている神への供物や神楽は欠かさなかった。美雨とその家族も折あるごとに祠に頭を下げて手を合わせた。


 暴風雨も無ければ台風も直撃しない。数日に一度はしとしとと上品な雨が降るので日照りもない。イナゴ等の害虫も少ない。理想的な環境が続く。


 祖父は天に向かって神仏に感謝の言葉を述べたが、不作に備えた。村の者と一緒に庄屋と交渉して年貢をなるべく低く抑えてもらい、余った米を脱穀しないですっかり乾かし、蔵に慎重にしまう。他に日持ちのする食物も新たに小さな蔵を作って丁寧にしまう。鼠や蛇や害虫を寄せ付けないように香を炊いたり子ども達に見張らせる。


 寺の和尚が不作の村に食糧を分けてくれるように頼む。庄屋を中心に村の男達は話し合っていくらか分け与える。


 美雨は鼠や害虫を捕まえては黄色い蛇に食べさせる。蛇は美雨に懐くようになった。祖父は、

「殺生するな!」

 と、叱ったが、蛇が口を開けて威嚇した。祖父は蛇に近寄らないようにした。美雨は蛇に雲右衛門くもえもんと名付けた。雲右衛門は美雨の他に次姉の雪にも懐いた。


 嫁に来た仙は美雨達の祖父母にいびられていたが、舅姑にあたる父母は大人しかった。二人は寡黙に仕事をこなしていく。仙は雷助の看病をしたり村の者との交渉をする雷助を手伝ったりした。今まで兄の世話をしてきた風は余裕が出来たが、祖父母と両親の手伝いをした。風は機織りが得意なので晴れ間でも雨でも家の隅で織っていた。


 雪は母親から裁縫を習い始めている。姉の織った反物から家族の服や袋などを作っていく。


 雹兵衛は文句を言いながらも祖父母と両親の手伝いをした。まだ子どもだが力仕事も任され始めていく。田畑を耕したり肥料を撒いたり種を播いたり果樹の剪定したりと忙しい。


 美雨は村の中を歩き回って幼子や赤子の遊び相手になった。腹を空かせたら母親の所まで運んで報せに行ったり、時折オシメを取り替えたり、窪みや地面に落ちないように見張ったりしていた。


 子どもの面倒を進んで観るので、美雨は村の女達から可愛がられるようになった。

「雨ちゃん、この子をよろしく」

 美雨は皆から「雨」「雨ちゃん」と呼ばれている。美雨は特に嫌がらなかった。時折母親が、

「お前の名前は本当は美雨みさめだからね」

 と、念押しをする。


 美雨は泣いている幼子を見かけると、蛇の雲右衛門を見せる。雲右衛門は子ども達に噛みつかなかったし、子ども達も不思議と怖がらなかった。とぐろを巻いた所を美雨や他の子ども達に乗っかられても襲わなかったし、子ども達の胴を緩く巻いても締め付けはしなかった。


 大人達はそれを不思議そうに眺めていた。子ども達が危ない悪戯いたずらをしたのを見かけた大人が叱っても、雲右衛門は動じないが、子どもに理不尽な暴力を振るう大人には口を開けて威嚇する。


 長兄の雷助は雲右衛門を眺めながら時折、

「賢いな」

 と、誉める。


 害虫を探しては雲右衛門に餌付けして、子守もする。美雨もまだ幼いが、次姉に育てられているので特に不満はなかった。美雨に感謝して村の者達は美雨の家族にお裾分けしたり忙しい時には野良仕事などを手伝った。祖父母の美雨への見方も変わっていく。

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