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美雨  作者: 加藤無理
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八人家族

 年が明けてやがて春になる。重孝が家臣達を連れて戻ってきた。鷹山家は準備を整えた上で迎えた。重孝は笑顔で子ども達を美雨と箱三郎に引き合わせた。箱三郎は平伏して、

「ご迷惑をおかけしました」

「いいや。皆、思っていた以上にしっかりしていた」

 五人の子ども達は母屋に入っていく重孝に平伏すると、美雨と箱三郎に振り向いた。美雨に背負われている松三郎に気付くと九歳になった夏郎が呆れた様子で、

「母ちゃん。また産んだのか」

 十一歳になった籠がそれを咎めた、

「母上と呼びなさい」

 まだ三歳の麦は何度も侍達に背負わされてはいるものの、長旅で疲れている。美雨が笑顔で両手を広げると、躊躇いがちに近寄ってきた。美雨が麦を抱き上げる。五歳の大二郎もヘトヘトで、箱三郎が背負った。皆、小さな家に入る。七歳になった春は草履を脱いで足を急いで拭く。


 皆、中に入ると美雨が子ども達を見渡し、

「皆、苦労かけたね」

 麦と大二郎はポカンと美雨を見つめている。美雨の隣にいる松三郎もポカンと兄姉を眺めている。籠は、

「こちらに来るのを断れなかったのでしょう」

 箱三郎は、

「まあ。上様からの御頼み事で断れる者などいないさ」

 夏郎が興奮気味に、

「上様って殿様より偉いんだってね」

 箱三郎は呆れ顔で、

「そうだ。俺達みたいな者が本来お会いできるかたではないんだ。いや、殿も非常に偉いお方なのだ。また殿に礼を言わねば」

 春は不安そうに、

「私達は本当に武家なのかな?」

 大二郎は、

「姉ちゃん。何を今更。御祖母様おばあさま達が厳しく何度も『武家の誇りを傷付けるな!』と怒っていたじゃないか」

 籠は、

「だったら母上達に敬語を使いなさい」


 世話係の夫婦が来た。皆、振り向いて挨拶した。子ども達は長旅で疲れている上に服装も少しほつれている。夫婦は持ってきた服を出して子ども達に着替えさせた。子ども達は安物の木綿の古着を着ている。大きくなって着られなくなったら更に弟妹に譲っている。木綿の新品は始めてだ。子ども達は驚きはしゃいだ。


 着替えると一家は母屋に入った。末っ子の松三郎は老夫婦に預けている。重孝の執務室の前で待機していると若い侍が襖を開ける。皆、平伏する。重孝は子ども達を見渡しながら、

「まだ小さいのによく旅に耐えたな、お前達」

 長子の籠が、

「ありがたき御言葉です。殿と皆様のおかげでございます」

 重孝は微笑んだ。夏郎と春は緊張して冷や汗をかいている。特に夏郎は旅の途中で重孝に近寄ろうとして家臣達に怒鳴られたことがある。大二郎と麦も空気を察して大人しくしている。重孝は、

「堅苦しいだろ。下がっておれ」

 皆、一度平伏すると、脇にいた侍達がそっと襖を閉めた。皆、ゆっくりと立ち上がる。


 一家は話し合いの結果、家族以外に誰もいない時は敬語を使わずに会話し、改まった時は作法に出来るだけ注意する事にした。


 夏郎は疑いの目で美雨に、

「母ちゃんはあと何人子どもを産むの?」

 春も不安そうに、

「母ちゃんはもう三十路過ぎてるでしょう。大奥も三十路過ぎは追い出されるし」

 美雨は眉間に皺を寄せて、

「産めなくなるまで生むさ」

 籠はやや呆れ気味に、

「もう六人もいるし育ってる。それにお産は命懸けなんでしょう」

 美雨は溜息を吐き、

「私のいた村では十人も子どもを産んだ母親がいたよ。六人なんて多くないぞ」

 麦はニヤニヤ笑って、

「母ちゃんすごい」

 大二郎は、

「そうか?弟妹増えるとかまってもらえなくなるぞ」

 美雨は苦笑いして、

「妬むなよ、大二郎」


 傍らで箱三郎は松三郎を脚に乗せながら笑顔で家族を眺めている。

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