表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美雨  作者: 加藤無理
14/33

鷹山家

 鷹山の国から江戸へは八日かかる。百人規模の大名行列だともっと時間がかかる。けれども美雨の力のせいか、七日で江戸に到着した。春先の事である。


 江戸は人口密度が高く乾いた風が四六時中吹いている。けれども美雨のいる今は湿り気の有るそよ風が吹いている。鷹山家中は屋敷に入ると荷解きを始めた。その途中、重孝は美雨を呼んで妻子に会わせた。


 重孝と同じ歳ぐらいの初老の女と、若い男二人に若い女一人が座っていた。重孝は皆に美雨を紹介し、美雨に妻子を紹介した。初老の女は重孝の正室のまつ、若い男二人のうち長男が直孝なおたか、次男が行孝ゆきたか、若い女はきく。皆、松が生んだ子ども達である。


 美雨は松と菊に礼儀作法を教えてもらう。老中と会う時も松と菊が同行する。窮屈が苦手な美雨は一瞬、眉を寄せた。松はそれを逃さず、

「無礼だぞ」

 美雨は平伏した。松は低い声で、

「お前の失態で皆の首が飛ぶことになるぞ」

 美雨は、

「肝に銘じておきます」

 重孝は苦笑いした。


 美雨は十日ほど、みっちりと菊と松から作法を教わった。田山家の姑の櫂と兄嫁の幹よりも厳しく、失敗すれば何度も扇子で腕や頭を叩かれた。特に松は不器用な美雨を見ては腹立たしげに溜息を吐く。菊はそんな母親をなだめようと、

「母上。美雨は元は百姓の娘なのでしょう」

 松はギロリと菊を睨み、

「それは甘えだ。それにお前こそ美雨を見下しているではないか」

 菊は俯いた。美雨はなんとか頑張った。


 その間に箱三郎は江戸に常駐している同士から根掘り葉掘り美雨について質問を受けていた。真面目な質問や真面目な態度ならば誠意を持って答えるが、ふざけた質問やふざけた態度には曖昧にはぐらかす。江戸常駐の家老から何度も呼ばれる。


 それだけでなく、重孝の次男の行孝から作法の確認をされる。少しでも間違えれば怒鳴られる。その度に箱三郎は頭を深く下げる。失敗が重なれば、

「田舎者!」

 と、軽蔑される。箱三郎は腹を立てたが反抗せずに謝る。本来ならば顔を会わせる機会が無い二人であった。それに行孝は主君の息子だ。


 世継ぎの直孝はそれを尻目に家族と団欒する。直孝には正室のさきと娘のまい、息子の藤丸ふじまるがいる。父の重孝の跡を継げば隔年しか江戸にいられなくなるし、江戸にいても用事で家族といられなくなる。直孝は特に元服前の藤丸を可愛がった。


 鷹山家中は質素倹約しているので、女遊びする者は殆どいない。いたとしても処罰される。重孝にも直孝にも妾どころか側室すらいない。賭博も控えている。時折、書物や絵を買うか借りるぐらいである。それも家老と相談した上だ。書物は皆で共有するか安い紙に書き写す。


 全体的に鷹山家中は他家と比べて剣術や弓術や銃術といった武術は苦手だが、議論好きで口が上手い。例外的に重孝が弓術も議論も得意だ。江戸の中では良い練習場を持ってないので、河谷家の練習場を借りる。河谷家は対照的に武術を得意としている。


 江戸は穏やかな日々が続いた。暴風雨も日照りもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ