第97話「一の矢、二の矢、三の矢どころか、それ以上の手立てを講じる」
グロンドモン鉱山坑道を進むクランステイゴールドのメンバー達。
革兜に装着した携帯魔導灯へ照らされる坑道は長く続き、最奥部はまだ先。
だが、残党たるゴブリンの抵抗も無く、発煙筒の残煙も無く、
一行の歩みを止めるものはナッシングだ。
5㎞まで見通せる暗視魔導ゴーグルの効果も抜群。
元々真っ暗な坑道内と思えないくらい、視野は昼間の地上のようである。
ロックとグレゴリーは以前使用した事があるから、普通に振る舞っていたが、
初めて使用する新メンバーは、その凄まじい効果に驚愕、戸惑いまくっていた。
まさに鬼に金棒といえる装備だと。
こうなると安堵し、緊張感が抜ける事が多いが、
ロックは気を引き締める。
「皆さん、最奥部にゴブリンどものリーダー、ゴブリンシャーマンが数体の上位種護衛と共に残っています。そいつらを倒すまでは油断してはいけません」
「「「「「ゴブリンシャーマン!?」」」」」
補足しよう。
最奥部に潜むゴブリンシャーマンとは、ゴブリン上位種のひとつ。
体力、耐久度はそう高くはないが、
体内魔力が通常のゴブリンの数倍から、最大は10倍にもなる。
数多居るゴブリン上位種の中では、統率力に優れ、群れを率いる事が多い。
中レベルくらいまでの魔法を使いこなし、初級レベル死霊術を行使するものも居る。
だが、今回討伐するゴブリンの群れを、
ゴブリンシャーマンが率いている事などロックは想定済み。
「とは言っても大丈夫。ゴブリンシャーマンが居る事は織り込み済みです。そして相手がどのような魔法を使うのか、事前に分かりさえすれば、怖れる敵ではありません。下手に近づかず、こちらは先に遠くから囮を使い、直撃されないようにしますから」
ここでサブリーダーのグレゴリーが振り返り、ロックに話を合わせる。
「ロックさんに同意っす! ゴブリンシャーマンは新規メンバーのうちのどなたかが遭遇し、戦った事があるかもしれないっす。でっすが、新生クランステイゴールドにとっては未知の相手でっすし、リスクは出来る限り負わないようにするっす!」
「グレゴリーさんの言う通りです。囮を使うタイミングで声をかけますから、このまま進みましょう。当然、敵が出現したらその都度、報せます」
ここで口を開いたのはジョス。
底知れないロックの索敵能力を見せつけられ?
自信を喪失したのか、はあああ……と深い溜め息をつき、恐れ入ったという顔つき。
「さすがですね、リーダーは……俺の索敵でそこまで探るのは絶対に無理です。最奥部に何か居るな、くらいしか分かりません」
ここまでジョスに自信を持たせるよう事を運んで来たロックだが、
このような状況も想定済み。
慰めるのは却って逆効果。
ポジティブに激励、前向きにがセオリー。
「ですか! ではもっと修行しましょう、ジョスさん。俺もまだまだ物足りないから、更に上を目指します」
「え!? ここまでとんでもない索敵スキルを持つリーダーでさえ、まだまだ物足りないのですか!?」
「ええ、全然満足していません!」
「そ、そうですか。……わ、分かりました。俺も頑張ります!」
……という事で、場は収まり、ロック達は更に鉱山の最奥部目指し、
進んで行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
グロンドモン鉱山坑道内に巣食っていた、
1000体にものぼるゴブリンの群れの大半は燻し出され、
鉱山出入り口にて討伐されたようだ。
ロック達の索敵には、最奥部にこもるゴブリンシャーマンと、
その護衛どもの反応しか無く、行く手を阻む者はナッシングである。
……という事で、ロック達は順調に進み、
遂に、ゴブリンシャーマンが居る地点から約100mの位置に。
うかつに近付かないよう、ロックから指示が出て全員がその場に待機した。
「成る程。そういう事だったんですね」
と、独り言を言うが如く、うんうんと頷くロックは苦笑。
そんなロックの言葉を耳にし、グレゴリーが尋ねる。
現場で交わすいつもの会話パターンだ。
「そういう事って、どういう事っすか? ロックさん」
「ええ、ゴブリンシャーマンとその護衛どもが何故、魔導発煙筒の魔法煙を防ぐ事が出来て、そのまま坑道内に残れたのかって事ですよ」
「確かに! ゴブリンシャーマンだけは燻し出されて来なかったっすね。俺も不思議に思っていたっす。あんなに強力な催涙効果のある魔法煙なのにっす」
いつもの通り、ロックとグレゴリーの会話が始まった。
新規メンバー達は、黙って話を聞いている。
ロックは新規メンバーの為にも、グレゴリーへ丁寧に説明する事に。
「魔法煙から逃れられず、群れの殆ど、1,000体近い数多のゴブリンどもは出入り口から燻し出されて来た。となると、他の脱出口はほぼ無い。だが、ゴブリンシャーマンと護衛どもの反応はそのままで坑道内に残っている。何故だろう? と考え、仮説を立てました」
「ロックさんは仮説を立てたっすか」
「はい、ここまで接近して、確認が取れ、謎が解けました。坑道とは変に段差がある場所にゴブリンシャーマンどもが居るから、おかしいとは思いましたが……多分ですが、奴ら、坑道の最奥部に自分達で緊急避難用の地下壕を造っていて、魔法煙が来た時、慌てて逃げ、上から蓋をし、難を逃れていたのではと」
「おお、そうだったんすね」
「はい、地下壕に加え、慌ててうんぬんも俺の想像ですが、ほぼそうでしょう」
「成る程っすね。で、ロックさん、どうします?」
「はい、自分達だけ安全な場所へ逃げ、助かって、配下どもだけ魔法煙に燻された上、倒されたのは不公平です。ゴブリンシャーマンと護衛どもにも同じ苦しみを味わって貰い、俺達で捕獲するか、とどめを刺しましょう」
「でっすね!」
グレゴリーが笑顔で返し、終了した会話。
この会話を聞き、新規メンバー達はどう感じ、何を考えたのか?
はっきりしているのは、とんでもない能力を持つロックが、
18歳の少年とは思えない、冷静沈着さを持ち、
的確な作戦を立て、判断をくだせるという事実だ。
……という事で、再びロックはてきぱきと指示を出す。
「まず、改めて俺の索敵でゴブリンシャーマンどもが逃げた地下壕を探し出します。
位置を特定出来たら、この並びのまま全員で移動します。
地下壕に到着したら、ブリジットさんとフラヴィさんは、100m後方へ距離を取り、
回復魔法の魔法杖を構え、戦闘態勢のまま待機。
グレゴリーさんとゴーチェさんで、かぶせてある蓋を取り外し、
俺とジョスさんが稼働させた魔導発煙筒を中へ投げ込みます。
投げ込んだら、急ぎ俺達4人はブリジットさん達の待機地点へ戻り、全員合流して、
しばし、待機します。
ちなみに、今、使用している暗視魔導ゴーグルは、目と鼻だけではなく、
口も覆っている事から、ピンと来た方も居ると思いますが、
防煙、防塵効果にも優れていますから、
魔導発煙筒の魔法煙も完全に防いでくれますので、ご安心を。
燻し出され、ゴブリンシャーマンどもが出て来たら、俺が超魔導幻影杖から、
幻影魔法弾で人型の囮を放ちます!
囮に反応し、何らかの魔法を行使したら、
その隙をつき、超魔導威嚇&束縛魔法杖で、行動不能にし、
グレゴリーさんとゴーチェさん、ジョスさんで捕獲。
もし捕獲が困難なら、ためらわずに倒して頂いて構いません。
万が一、超魔導威嚇&束縛魔法杖が有効ではなかったり、
ゴブリンシャーマンの魔法が強大であったり、危険を感じたら、
俺が風弾をゴブリンシャーマンへピンポイントで撃ち込み、
いざとなれば空間魔法で強制収容します。
それも困難な場合は、俺が通路に風壁の魔法杖を行使。
ゴブリンシャーマンどもが足止めされている間に、全員で一時撤退します。
以上です。宜しいでしょうか?」
一の矢、二の矢、三の矢どころか、それ以上の手立てを講じる。
そんなロックの作戦を聞き、
「「「「「了解!」」」」」
5人のメンバーは力強く返事をしたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。
東導号の各作品を宜しくお願い致します。
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
◎小説書籍版既刊第1巻~8巻大好評発売中!
《紙版、電子版、ご注意!第8巻のみ電子書籍専売です》
(ホビージャパン様HJノベルス)
※第1巻から8巻の一気読みはいかがでしょうか。
◎コミカライズ版コミックス
(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)
既刊第1巻~5巻大好評発売中!
《紙版、電子版》
何卒宜しくお願い致します。
コミックスの第1巻、第3巻、第4巻は重版しました!
皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。
また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。
コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。
WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。
マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が購読可能です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
⛤『外れスキルの屑と言われ追放された最底辺の俺が大逆襲のリスタート! 最強賢者への道を歩み出す!「頼む、戻ってくれ」と言われても、もう遅い!』連載中!
⛤『冒険者クラン新人選択希望会議でドラフト1位指名された無名最底辺の俺が、最強への道を歩みだす話!』《完結済み》
⛤『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』《連載再開!》
⛤『頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのあ
る王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話』《完結》
⛤『異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!』《完結》
も何卒宜しくお願い致します。




