第79話「賊どもを捕縛するタイミングは決めている」
ロックとグレゴリーは、とあるベストポジションへじっくっりと腰を据えた。
当然、準備は万全。
下手な攻撃など受け付けない魔法鎧、超魔導革鎧に身を固め、
その上から超魔導隠形ポンチョを羽織って気配をほぼ消し、
暗視魔導ゴーグルで周囲を睥睨、更にロックの索敵で3㎞四方をチェック、
という完璧さである。
目の前の養殖池の魔導羽根型水車の羽が水をかき混ぜ、
勢いよく水しぶきが上がっていた。
平和そのものという雰囲気。
しかし、遠くから、何か獣の咆哮らしき声も聞こえ、不穏な気配も……
これから長い夜となりそうだが、ピオニエ農場、コルヌ牧場で既に経験済み。
なので、ロックとグレゴリーには、全く苦にならなかった。
但し、これまでと全く勝手が違う地形、敵には充分注意しなければならない。
ラック養魚場スタッフの目撃情報によれば、
魚を喰い荒らす魔物は、防護柵を乗り越えるゴブリン以外に、
ラック湖から現れる正体不明な水属性の魔物も居るという。
また、同じく湖を泳いで来るらしい熊による被害も甚大であると。
やがて陽が西の水平線下へ落ち、闇が辺りを染めて行く……
そして完璧な闇がふたりを包んだ。
だが、ロックはまだ超魔導照明魔法杖を使わない。
養魚場内を淡く照らす魔導灯などを除き、照明はナッシングである。
そう!
わざわざ遠方から、自身の存在を示す物は使わないのだ。
そんなこんなで、じっと待つロックとグレゴリーだが……
……約1時間後ロックの索敵に反応があった。
「グレゴリーさん、俺の索敵が賊どもを捕捉しました。距離はここから3㎞。小舟3隻で接近しています。人数は計11人、ふたりがシーフ職、残り9人は戦士職のようです。魔法使いは居ませんが、シーフ職ふたりと戦士職ひとりの計3人が弓矢を装備しています」
いつもながら、ロックの索敵能力は凄まじい。
情報戦を制する者が戦いを制す。
今までの経験で思い切り実感するグレゴリーは頼もしそうに笑う。
「おお、相変わらずっすね。で、どうします?」
「ウスターシュさんも含め、3人で打合せした通りです。まずは上陸地点を想定し、その付近で気付かれないように待機。奴らが上陸後、その地点から離れたら、やはり気付かれないように回り込み、奴らの舟を接収します。見張りが居たら、超魔導威嚇&束縛魔法杖で無力化し、舟と一緒に空間魔法で拘禁します」
「了解っす。まずは舟を接収し、逃げ道を断つって事っすね」
「そうです。その間も俺の索敵で奴らを捕捉したまま、気付かれないように接近し、密漁したら、超魔導威嚇&束縛魔法杖か、風弾の魔法杖を使い、現行犯で身柄を拘束。空間魔法で拘禁します。まあ現行犯云々というより、無断で養魚場の敷地内へ入っただけで不法侵入者なんですけどね」
「で、もし、突破されたり、逃げられたら?」
「はい、多分、上陸地点へ戻るでしょうから、舟が無く、奴らは混乱するでしょう。その隙を衝き、全員を拘束し、拘禁します」
「成る程っす」
「で、ラック湖から来る奴らはその繰り返し。防護柵を乗り越え、来る賊の奴らも、同じように対処します」
「なら魔物、肉食獣は? 打合せ通りっすか?」
「はい、打合せ通り、威嚇と討伐をケースバイケースで行います。人間の賊以上に気配察知の能力に優れていますからそれを踏まえ、対処しますよ」
「了解っす。まずは最初に来た人間の賊っすね」
「はい、こうやって話している内に、3隻の舟はより接近し、ほぼ上陸地点が分かりました」
「お~、さすがっす。では、そろそろ行きまっすか」
「行きましょう」
ロックとグレゴリーは、すっ、すっ、すっと、静かに動き出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
索敵で賊どもの動きを把握しつつ、ロックとグレゴリーは、上陸想定地点へ。
その地点から充分に距離を取り、かつ死角になる場所に陣取り、上陸を待った。
さすがに賊もプロ。
無駄口など叩かず、無言で息を潜め、上陸。
上板を外した空樽を乗せた荷車を曳いているのは、密漁した魚を持ち帰る為だろう。
そして迷わず、一直線に、とある方向へ進んで行く。
ピオニエ農場の賊もそうだったが、どうやら密漁する養殖池を、
最初から、ピンポイントで決めているらしい。
手慣れた様子から見ても、賊どもが常習犯で、
何度も密漁をしているのは確かである。
そんな状況で、ロックとグレゴリーが、湖畔につながれた舟3隻を見やれば……
やはり見張りがひとりだけ残っていた。
ロックの計算通り、作戦通り、まずは見張りの確保、そして拘禁。
これまでに植物、虫、獣等で、そして先日ゴブリンでも試し、
いずれも『仮死状態』となって、現世へ戻す際、搬出し、
約30分から1時間で『蘇生』している。
つまり全てが『成功』した。
今回は懲りずに犯罪を重ねる賊を使い、
人間族を空間魔法で拘束する実験も兼ねていた。
これからの依頼遂行、完遂を考えれば、この実験は必要不可欠なのである。
という事で、顔を見合わせ、頷き合ったロックとグレゴリーは、
すっ、すっ、すっと静かにスムーズに接近。
超魔導隠形ポンチョの効果効能は抜群である。
見張りは全く気が付いていない。
ただ至近距離へ肉迫する必要はなかった。
超魔導威嚇&束縛魔法杖の射程距離、『約300m以内』まで接近すれば良いのだ。
300からもう少し近寄り、賊の上陸部隊が充分に離れたところで、
ロックは超魔導威嚇&束縛魔法杖で魔力を放ち、
見張っていたシーフ職の賊を行動不能にし、上陸地点へ移動。
信じられない!と驚き、目を見開く賊を尻目に、
岸に乗り上げられていた3隻の舟を次々に接収、空間魔法で次々に放り込んだ。
これで退路は断った!
もう湖経由では逃げられない!
となれば、内陸へ逃げ、養魚場を突破するしかないが、ロックとグレゴリーは、
ベルトラン養魚場長以下へ、
「戸締りを厳重にし、合言葉以外の問いかけには答えず、扉を固く閉ざしておくように」
と指示を徹底しておいた。
なので、賊どもが殴打用の武器などで、扉を破壊しない限り、
中へは容易に侵入は不可能でもある。
唯一、気がかりなのが放火だが、プラティヌ王国の法律において、
放火殺人は最も重い罪のひとつとされていて、刑罰も容赦なく、
王都サフィール郊外の刑場で、公開処刑と定められている。
そんな厳罰ゆえ、人が居る建物に意図的に放火し、殺害する事は滅多に無かった。
しかし、万が一の際、ロックは遠距離魔法杖射撃で、
賊どもを即、討伐するつもりだ。
……という事で、行動不能とした賊も魔導捕縛ロープで緊縛、拘束し、
空間魔法で放り込むと、ロックとグレゴリーは、上陸した賊どもの追跡を開始。
賊どもがピンポイントで狙ったであろう養殖池へ近付いた。
先述したが、今の時点でも不法侵入、である。
だが奴らの罪を明確にし、これまでの犯行と合わせ、
厳しく処罰する為には現行犯逮捕が望ましい。
そして張り巡らされたロックの索敵には、賊どもの動きが手に取るように分かった。
そう!
今、奴らは、エサを投げ、養殖池へ撒き、魚を呼び寄せると、
用意していた投網をいくつも投げ込んだ。
ここで、もう密漁の現行犯確定。
そして養殖池の中は魚がひしめき合うほどの数。
呼び寄せた事もあり、当然、賊どもが引き上げる投網の中は魚がぎっしり、である。
ロックとグレゴリーは、すっ、すっ、すっと静かにスムーズに接近。
一気に距離を詰め、賊どもから300m弱の位置へ。
賊どもを捕縛するタイミングは決めている。
奴らが魚を網から出し、ほくほく顔で樽へ入れ終わった瞬間だ。
密漁が成功し、気が緩み、注意力が散漫になると、ロックは想定したのである。
そしてビンゴ!
予想通り、賊どもは、大量の魚をゲットし、樽へ入れた瞬間。
にんまりと笑い合い、周囲への注意が緩んだ。
その瞬間!
しゅば! しゅば! しゅば! しゅば! しゅば!
しゅば! しゅば! しゅば! しゅば! しゅば!
ロックが構えた超魔導威嚇&束縛魔法杖から、
強力な魔力が放たれたのである。
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