第73話「いやあ、分からないっすよ!」
自宅前で満面の笑みを浮かべるエレーヌに見送られ、
ロックはオフィスへ戻った。
「ただいま、もどりました!」
と声を張り上げ、事務所へ入ると、居るのはウスターシュひとり、
グレゴリーはまだ戻っていなかった。
ウスターシュが言う。
「おお、ロック! お疲れさん! グレゴリーはどうした?」
「ええ、予定通り、それぞれ女子を自宅へ送って行ったので、途中から別行動です」
「成る程。まだ戻って来ないところをみると、送って行った女子と上手くやっているって事だろう。何よりだな」
とウスターシュはお察しという感じ。
そして渋い表情になると更に言う。
「ところでロック」
「はい、何でしょうか?」
「ロックとグレゴリーのやりとりを傍でたまに聞くが、相変わらずグレゴリーはロックへ頼りきりじゃな」
ウスターシュの言葉を聞き、ロックの顔つきもやや渋くなる。
「ええ、グレゴリーさんには可愛い彼女が出来そうですし、彼女の為にも自分の人生は自身で切り開き、主導するよう何度も言ってはいるんですが」
「うむ! いくらロックがリーダーとはいえ、本当に頼り切り過ぎだ。そしてあいつは2歳だけではあるが、ロックよりも年上の20歳。サブリーダーとしても、もっともっとしっかりして貰わなければいかん」
「同感です。なので俺へ頼り過ぎず、まず腹案を持って相談するようにと、グレゴリーさんへは、お願いしました。もし守らなければ突き放すつもりです」
「ああ、あの甘ったれにはそれが良いと思う。まあ何かあれば相談に乗るぞ」
「ありがとうございます」
「で、話は変わるが、先日、これから遂行するラック湖養魚場、そして周辺の地図を用意したが、わしの方で基幹となるメイン地図にいろいろ情報を書き込んでおいた。そして、その場に適応しそうなわしの作品と使用方法、使用パターンも書いておいたぞ。ロックとグレゴリーで確認をしておいてくれ」
「ありがとうございます! 助かります!」
ロックは心からそう言った。
これまではロックが作成していた資料を、
ウスターシュが代わりに作成してくれたから。
「うむ! ケースバイケースではあるが、わしは現場には出張らず、オフィスで留守居役を務め、後方支援、連絡役、こういった資料作成、事務整理などをしながら、本分である付呪魔道具の開発とメンテナンス、バージョンアップを工房で行うという立ち位置が合っていると思う」
「分かりました。ウスターシュさんの意思を尊重するのと、俺も適材適所に同意します」
「うむ! ありがとう! リーダー! わしも頑張るぞ! 受諾した依頼はまだまだあるし、新たな依頼の発注も、これからどんどん来るであろうとリディさんも言っておった。弟子となって貰ったロックへ付呪魔法の指導もせんといかん。本当に忙しくなる!」
「ですね!」
「新規の入隊希望者もこれから履歴書が上がって来るだろう。幸い、受付窓口を冒険者ギルドに限っていて、直接の応募を禁止しとるから、このオフィスへ押しかけて来る事は無いがな」
「ですね!」
「だが、これから仕事が増えれば人手不足は顕著なものとなる。とりあえず後、2,3人は新メンバーが欲しいが、人数確保より、入隊がたったひとりでも『質重視』で行きたいものだ」
「おっしゃる通りですね」
「うむ! さてともう昼の12時だ。メシにするか?」
「はい、ただグレゴリーさんはまだ戻って来ないですね」
「ああ、わしとロックでどこかへ食べに行っても良いが、留守の間に、もしグレゴリーが戻って来たら、仲間外れにされたと、ひどくすねるだろう。奴の分も買って、弁当をオフィスで食べるか」
「はい! そうしましょう! じゃあ俺が買いに行って来ますよ。希望のものはありますか?」
「おう! 悪いな! わしはいつものやつにしてくれ!」
「了解です!」
という事で、ロックは近くの店へテイクアウトの弁当を買いに行き、
すぐに戻って来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼食後、ロックは事務作業。
ウスターシュは工房へ入り、付呪魔道具のメンテナンス作業。
という事で事務所にはロックひとり。
……グレゴリーが戻って来たのは、それから約2時間後の午後2時前である。
事務所へ入り、声を張り上げるグレゴリー。
にこにこの笑顔なので、いろいろ上手く行ったらしい。
「ただいま、戻りましたあっす!」
「ああ、グレゴリーさん、お疲れ様です。無事アルレットさんを自宅まで送れましたか?」
「当然、バッチリっす!」
「ですか、良かったです。ところでお昼は食べましたか?」
「はいっす! アルレットさんの部屋へ入れて貰い、俺達で購入したお弁当と彼女の手料理を合わせ、シェアし合って、昼食として食べたっす! 幸せいっぱいも含め、満腹っす!」
「ですか。一応、グレゴリーさんの分の昼食も買っておいたんですが、不要となりましたね」
「えええ!!?? そ、それは申し訳なかったっす! 勿体ないから食べまっす」
「いやいや、お腹いっぱい食べて来て、更に食べると太りますよ。グレゴリーさんのお弁当は、後で買う弁当とともに、今夜の夕食に充てましょう」
「分かりました! 本当に申し訳なかったっす! で、話は変わりますが、ロックさんの方はどうなりました? エレーヌさんと上手く行ったんでっすか?」
「はい、まあ」
「まあって事は、上手く行ったって事っすね」
「はい、エレーヌさんから告白され、お友達からという事になりました」
「うお! 凄いっす! やったじゃないっすか! ロックさんも初彼女ゲットだぜ!っすね!」
「いえ、まだお友達ですから初彼女ではありません。それとなるべくトラブルの無いよう友達付き合いをしますよ」
「トラブルの無いよう? いえ! それ! 大丈夫っす!」
「え? 大丈夫とは?」
「念の為、ロックさんがエレーヌさんと付き合うと云々の話は俺からは何も言っていないっすが、アルレットさんとエレーヌさんで話をしたそうでっす」
「話を、ですか?」
「はいっす! エレーヌさんからアルレットさんへ、ロックさんが凄く気になっているけど、上手く行かなかったり、付き合えても喧嘩したら、アルレットさんと俺に悪い影響が出るよね? 迷惑をかけるよね? って相談したらしいんでっす」
「相談を」
「はいっす! そうしたらアルレットさん。私とグレゴリーさんは大丈夫。気にしないでアタックしちゃえ! と言ったそうでっす」
「そうだったんですか」
「はいっす! それと以前、尋ねられたので、俺はクランステイゴールド誕生の話もアルレットさんへしたっす」
「ええっと、それ今の話と関係ありますか?」
「大いにありまっす。その時、冒険者ギルドの話になり、俺とロックさんをマッチングしたのは、冒険者ギルド職員リディさんって話したっす。さすがに正体が、ルナール商会直系のお嬢様って話はしなかったっすが」
「う~む、それでどう関係があるんですか?」
「思い出してくださいっす。クランステイゴールド誕生の際、リディさんが言った言葉を、ロックさんの事を褒めちぎっていましたっす」
「リディさんが……俺を……まあ、そうですね」
「ロックさんが更に成長し、完全体となれば、ゆくゆくは、とんでもないレジェンドな超有能冒険者がこの王都サフィールに現れる、そんな未来がはっきりと見えてしまいました!」
「という事で! このような空間魔法をお使いになる方は、見たどころか、聞いた事もありませんっ! 古代からの歴史をひもといてもですっ! それゆえ!! ロックさんは唯一無二の魔法使いなのですっ!!」
……リディの言葉を思い出したロックへ、グレゴリーは更に言う。
「さすがに詳しくは教えませんでしたが、リディさんは、ロックさんの資質に心底惚れ込んで、俺とマッチングしてくれたと、アルレットさんへ言いましたっす。その時、アルレットさんは、つぶやきました。その人、エレーヌの強力なライバルねって」
「え? リディさんがエレーヌさんの強力なライバル!?」
「そうっす! その時、俺は聞こえないふりをしましたっす。これはヤバくなりましたっすね!」
「いやいやいや、ヤバくないです。確かにエレーヌさんからは好意を示されましたが、リディさんは違うでしょう。何度も何度も格差があり過ぎると言っていますよね」
「いやあ、分からないっすよ!」
「分からない? 何でですか?」
「俺には感じるっす! ロックさんにも遂に遂に! 大いなるモテ期がやって来たっす! ロックさんを巡って恋の戦い、女子達の壮烈なバトルが始まるっす!」
グレゴリーは笑顔でそう言い切ったのである。
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