第八話:ウミ
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「もう『ウミコ』で良くね?」
「…お前ほんとセンス無いな」
「俺はウミのままで良いと思うが」
「だーかーらー、それだと本物の海とこっちのウミと被って紛らわしいって言ってんじゃん!」
「……。」
4人はあれからいつもハレが舵を握っている操舵室へと移動した。
今までずっと3人で旅をしてきたこの船は比較的小柄な船で、部屋と言えば寝室とキッチンとここ操舵室、そして小さなバスルームの4つしか無い。
寝室は高さの低い二段ベットが2つ並んでいるだけでいっぱいいっぱいの小さな部屋。キッチンにも最低限の家具とテーブルが並んでいるだけ。あとは地下に倉庫や物置きといったスペースはあるが当然人が寛げるような場所では無い。
そんなわけで3人が集まるとしたら大抵ここ、操舵室となるのだ。
「だったらもうイズモで良いだろ」
「お前は適当過ぎだカイリ!それただのファミリーネームじゃねえか!」
「……。」
そんなこんなで集まった4人がまず何を始めたかと言えば、少女―ウミの呼び方を考えることだった。
「わたし、イズモで良いよ」
「いーや駄目だ!せっかく仲間になったのにそんな余所余所しい呼び方なんて嫌だぜ俺は」
「ったくニアは面倒くせーなあ…」
「…イズ」
「え?」
「それなら、イズでどうだ」
そこへポツリと呟いたのはハレだった。
それまで言い争いをしていたカイリとニアもそんな唐突なハレの言葉に一瞬キョトンとして、それから同時に互いの顔を見合せる。
「…良い!それ良いな!」
「まあ、ウミコとかよりは全然良いか」
「うっせえよカイリ!」
「お前はどうだ、イズ」
「え?」
「気に入ってくれたか」
『イズ』
パパにもママにも、先生にも友達にも、誰にも呼ばれたことの無い名前。
ウミにしてみればウミコだってイズモだって何だって気にしないのに、皆が一生懸命考えてくれた呼び方。
ウミは何だかとても暖かい気持ちになった。
「うん!私イズが良い!」
「…そうか」
「決まりだな!よしイズ、俺が今から船の案内してやるよ。行こうぜ!」
「うん!」
ニアが張り切って立ち上がるとイズも目を輝かせて立ち上がった。
そうして操舵室から出ていく2人の背中をハレとカイリは苦笑いで見送った。
「阿呆か。こんなちっさい船の何処の何を案内するってんだ」
「…まあ、2人が喜んでいるんだからそれで良いだろう」
「まあ所詮ガキだからな、ニアも」
「年下の相手ができて嬉しいんだろ」
もちろんイズは中身がどうであれ、見た目どおりまだまだ好奇心旺盛な子供にすぎない。
そしてニアも実は年齢的にはカイリの1つ下で、つまり3人の中ではニアが1番年下だったのだ。
そのためか突然現れたイズという小さな存在もニアにとってはまるで妹が出来たかのような気分で嬉しいのだろう。
「ところでカイリ、この近くに小さな島があるんだが少し寄っていかないか」
「…良いけど、何か用事でもあるのか?」
「ああ。イズの服を買ってやらないといけないからな」
「……」
ハレもニアのことは言えないな、とカイリは心の中で静かに呟くのだった。