第七話:幕開け
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『地図に無い島』
それはアグアテラの世界で随分と昔から噂される伝説の島であった。
どこにあるかも解らない。
どんな人物が住んでいるのか、どんな歴史があるのか、かつてあらゆる学者達が研究を重ね調査を進めたが未だはっきりしたことは何も解っていない。
ただ、時々波に乗ってどこからともなく黄金の砂時計であったり現在は全く使われていない大昔の羅針盤であったり身元不明の白骨の一部などいろんな物が世界中のいたる所の海に流れ着いている所を発見されている。
そして恐らくそれが『地図に無い島』への唯一の手がかりとされていた。
しかし、今ではそんな伝説を信じている者もごく僅か。
昔は『地図に無い島』の正体はきっと黄金の町だとか、太古の歴史が詰まった巨大遺跡だとか、さまざまな仮設が飛び交った。
だが過去の偉大あ冒険家達が探しても探しても何の手がかりする見つけることができなかったため次第に人々の心の中から島への興味は薄れて行ったのだった。
「必ずあるさ、地図に無い島は」
カイリは全く迷いの見えない瞳ではっきりとそう告げた。
「俺の親父もずっと昔に地図に無い島を探して旅に出かけたんだけどさ、実は2年前からもうずっと連絡が取れなくて。どっかで死んじまってんじゃ無いかって噂してた時、偶然コレがうちに届いたんだ」
「…?」
するとカイリがベストの内ポケットから何かを取り出して少女の手に乗せてくれた。
それは少女の小さな手から溢れてしまうほどの大きさの黄金の懐中時計と、所々サビついてはいるがシルバーのブレスレットのようなモノ。
しかしよく見るとそのブレスレットには何かプレートのような物が付いていてそこには何か文字が刻まれていたが少女には読むことが出来なかった。
「それは親父のドッグタグっつって…まあキミにはまだ解んないだろうけど、とにかくそのプレートのとこには親父の名前と家の場所が彫ってある。それでこのドッグタグが、こっちの黄金の懐中時計に絡まった状態でどこかの海に流れ着いてたんだ。
それを親切な人がウチまで送ってくれたってわけなんだけど…あーつまり、これ、どういう意味か解る?」
「よく解んない」
「…良いか?おそらく、その懐中時計は地図に無い島から流れてきたもの。それからそのドッグタグは親父がいつも肌身離さずに持っていたはずのもの。
それがこうして一緒に流れてきたってことは、親父は地図に無い島を見つけたのか、若しくはその近くまで行ったってことなんだ」
「…あ!」
ようやく少女にも状況が掴めたらしく、パッと顔を輝かせた。
「だから俺達は親父を迎えに行くために地図に無い島に向かってるんだよ。
…ま、勿論場所の見当なんてまだこれっぽっちも付いてやしないんだけどさ。それでももしキミのいた島が本当に伝説の地図に無い島だったとしたら、キミの存在はこの世界でとーっても貴重な存在になるわけだ」
「すごい!おにいさんスゴイ!」
「…いやだから凄いのはキミの存在なんだけど……うん、まあ良いいや」
若干ズレた反応を返してくる少女に思わずガクリと肩を落とすもまあ理解はしてくれたようなので良しとしよう。
カイリはそうして少女の手から懐中時計とドッグタグを受け取るとそれをまた大事そうにベストの内ポケットへと滑り込ませた。
「じゃ、面倒くさい話はここまで」
「?」
「よく考えたらオレ、まだキミの名前知らないしさ。それに自己紹介もしてないからここらでちゃんとしとこうかと思うんだけど」
「サンセー!じゃ、俺からな!」
カイリの長い話の間ずっと静かに待っていたニアがここぞとばかりに進んで名乗りを上げた。
…どうやらずっと口を挟むのを我慢していたらしい。
「俺はホマレ・ニア、よろしく!」
「イチギ・ハレだ」
「セト・カイリ。よろしくお嬢ちゃん」
3人は順に名乗ってくれたが少女はさっきから3人がお互いに名前を呼び合っていたのを何度も聞いているのでもう覚えてしまっていた。
小柄だけど元気いっぱいのニア。
背が高くて大きくて無表情だけど本当は凄く優しいハレ。
そして王子様みたいなカイリ。
…だから今度は、自分を彼らに知ってもらう番だと思った。
「出雲海です。
よろしくお願いします」
ペコリ、と頭を下げる相変わらず礼儀正しい律儀な少女…改め、ウミ。
こうして、そんな奇妙な4人組の不思議な冒険の日々は幕を開けたのだった。