第二十四話:キャプテン
「改めまして、私の名はロダ・アルコ。船医をしています」
「…船医」
「ええ」
船医、というからにはやはり、それなりの船に乗って旅をしているに違いないとカイリは推測した。
「ここにはアルコさん1人で?」
「いいえ、連れがいますよ。夕方からフラフラと出かけてしまってまだ帰らないんです」
「へえ…」
にこにこ、と人の良い笑みを浮かべてスラスラと受け答えするその様子から特に敵意は感じられない。
だがこの人はまず確実にそう易々と本性を見せてくれるような人間では無さそうだ。
すると、あからさまに探るような視線を向けるカイリの様子に気付いたのか。
アルコはどこか楽しげに肩を揺らした。
「そんなに警戒しないでください。今日はもう遅いでしょう、お話があるのでしたら明日いくらでもお付き合いしますが」
「アンタ達はいつまでここにいるの?」
「そうですね、基本的には船長の気まぐれですが…最悪2、3日はいますよ。あなた達も、彼女が落ち着くまでは滞在するつもりなのでしょう?」
「まあ…。」
もちろん元々急ぐ旅では無いのだし、イズの熱が下がるまで出発するつもりは無かった。
確かに今日はもう遅いし、イズのことも心配だったカイリはアルコの提案に乗ることにした。
「それじゃ、明日また来るけど…」
「いつでもどうぞ。私は基本的に部屋にいますから」
「そっか」
どこまでも爽やかな対応のアルコに、ようやくカイリの警戒心もとけてきたのかもしれない。
そもそも彼はイズをお金も取らずに助けてくれた優しい人なのに。
どうしてこんなにも警戒していたのだろうと、後から考えれば不思議なことに思いながらカイリはこうしてアルコの部屋を去ったのだった。
***
「もう良いですよ出てきても」
「お前ね…気付いてたんならもっと早くアレ追っ払えって」
カイリが去った後、アルコは部屋へ戻らず。
その場でどこへともなく呟いた。
すると、数メートル先にある柱の影から返ってきた返事に。アルコは苦笑いを浮かべた。
「すいませんね。あまりに彼がセカイにそっくりでつい、懐かしくて」
「ああ、あの金髪か」
「アナタには解らないでしょうね」
「は?」
くすくすと、楽しげに笑ったアルコ。
柱の影に隠れていた男はまるで訳が解らないと言った表情を浮かべながら、部屋へと足を進める。
「花開く時が楽しみだ」
「…何言ってんの、オマエ」
「彼はまだ若い。ただし数年後が楽しみだとそういう意味です」
アルコの脳裏に残る、ほんの数年前に出会ったセト・セカイという男の記憶。
確かにセカイも今のカイリと同じように金髪で、小奇麗な顔立ちをしたなかなか目を引く男だった。
しかしアルコが言いたいのはそれだけじゃないのだ。
彼はなかなか勘が良い。
あの、真実を見極めようとする真っ直ぐな目はとても気持ちが良いものだった。
そして数年ぶりに受けた、その気持ちの良い眼差し。
それが今のアルコの気持ちを高揚させていた。
「ほんと、お前ってセカイ好きだね」
「アナタもでしょう、ミク」
「誰が。あんなオッサン」
「明日、一緒に彼と会いますか?」
「やだね。俺は船に戻ってっから話とやらが終わったら呼べよ」
「そうですか…残念です」
ミク、と呼ばれた男は部屋に入るなりそのままベットへタイブした。
よほど疲れていたらしい。
「船はどうでした?修理の方は」
「まだまだかかりそうだ。ちぇ、いつまでこんなチンケな島にいなきゃなんねえんだ」
「仕方無いでしょう船が壊れたんですから。それに私は好きですがね、この島」
「俺が興味あんのは地図に無い島だけ」
「…ハイハイそうでした」
「あー、しっかし流石に疲れた。俺はもう寝るぞ」
「解りました。
おやすみなさい、船長」
***