第二十二話:旅の一団
「カイリ」
「…ああ、ハレ」
イズを寝かしつけ寝室を出ると静かに扉を閉めたカイリは、ちょうどやってきたハレと出くわした。
「具合はどうだ」
「つらそうだよ。熱あがってんのかもな」
「…ここから南西へ少し行ったところに小さな島がある。サンジャラ島への航路からは少し外れるが急げば夜になる前には着くだろう。…どうする?」
そんなハレの、まるで解りきった問いかけに。
カイリは苦笑いを浮かべながら背後の寝室へと続く扉にチラと視線を向けた。
「どうするも何も。放っておけるかよ」
「…そうだな。すぐ進路を変えて来る」
「おー」
フッ、と表情を緩めたハレが踵を返して操舵室の方へと戻って行った。
こうやってわざわざ自分に許可を求めに来る辺りが、アイツは本当に生真面目な男だと思う。
そして自分は甲板の、船首へと足を向けた。
「確かこの辺りにある島っていうと…リンヤ島か」
***
そうして、もうすっかり陽も傾いた夕暮れの頃。
思ったよりも早くリンヤ島の港にカイリ達は辿り着いたのだった。
「起きれるか、イズ」
「う」
「ハレ、背負ってやれるか」
「ああ」
布団の中で丸まってるイズを起こしてそのままハレの背中へと強制的に乗せた。
頼りない腕がキュ、とハレの首元へまきついたのを確認して…3人は寝室を後にする。
そして、心なしか心配そうな表情を浮かべるセイを船に残し船を降りたのだった。
「おや?見かけない顔だねお兄さんたち…旅の人かい?」
すると、たまたま港の近くで釣りをしていた村人らしき人を見かけ、近づいて行けば此方に気付いた彼の方から声をかけてきてくれた。
そこへ代表して口を開いたのはカイリだった。
「この近くに医者はいませんか?病人がいるんです」
「!そいつは大変だ!」
ハレが背中に乗せたイズを見せる。
するとその人は釣りの最中だっただろうに…しかしそんなことは気にする様子もなく釣り竿を脇へ放り投げて立ち上がった。
「うちは小さな島だからね、病院は1つしか無いんだ。案内するよ」
「ありがとうございます!」
リンヤ島には町が1つしか無い。
カイリ達のいる島の港側に固まって町ができており、その反対側には深い緑の森が広がっているだけの小さな島。
そして町の中心に唯一の診療所があるとのことで。
やっと医者に診てもらえると思い、ホッとした胸を撫で下ろした。
…が、-
「…なんてことだ」
「嘘だろ!?マジかよ!」
案内されてやって来た診療所は扉が閉まっていた。
「診療所なら今日は休みだよ」
「休みって…先生はどこへ!」
「薬の買い付けにサンジャラ島へ行くって昨日話していたからね」
どうやらこの親切なおじさんと知り合いらしい、通りかかったおばさんが教えてくれた。
運の悪いことに、完全に行き違いになってしまったらしい。
「どうかしたのかい?」
「病気の子供がいるんだ」
「おやまあ!これは大変!」
「どうすんだよ、医者いねんじゃ…」
「それならアンタ達うちへおいでよ!」
「!?」
途方にくれた3人へ、そう声をかけたのはおばさんの方だった。
「うちは宿屋をやっていてね、ちょうど今アンタ達のような旅の一段さん達が泊ってるんだ。確か中に1人だけ医者という人がいたから、その人に看て貰えるように頼んであげるわ」
「!?お、お願いします!」
「こっちだよ。確かさっきまでは部屋にいたからね、今もいるはずだ。本当に奇跡だよ…めったに旅のお客さんなんか来やしないのに偶然タイミングが重なるなんてねえ」
そんな宿屋の女将さんの後ろについて歩き出した3人。
しかし、冷静に考えてみたところカイリは不審な点に気付き首を傾げる。
そんな旅の一団がいるというわりには港には他の船なんか止まっていなかったはず…どうして港に船が無いのだろうか。と。
…しかし、そんなことを考えながらも、今はその医者とやらにすがる他に何も手段が無いのは確かで。
カイリは何も言わずに後を追ったのであった。