第二十一話:風邪
***
「…あつい」
「あつっ!?お、おおおいカイリ!大変だ!イズがめっちゃ熱い!」
朝食を済ませ、船上に静かな時間が訪れた。
…かと思えば。
寝室で本を読んでいたカイリの元へそんなニアの叫び声が聞こえてきたのはあれから数時間後のことである。
「ったく、なんなんだよ今度は。イズがどうしたって?」
「イズがすげえアツいんだよ!これ熱あるんじゃねーの!?」
「…熱?」
イズを小脇に抱え、寝室へ飛び込んできたニア。
そしてようやく本から顔を上げたカイリは、そのただならぬ様子にパタンと本を閉じた。
「イズお前、やっぱ風邪ひいたんじゃないのか?」
「かぜ…」
「か、風邪薬!薬ねえのかよ!」
「…そんな大層なモノこの船にはねえよ」
何故なら、イズを除く3人はこうして旅に出て以来まともに病気をしたことすら無かったのだ。
たとえ体長を崩したにしても1日休んで無理やり回復に成功している。
つまり薬なんてものは必要なかったわけで。
カイリはイズを正面にして膝をつき、視線を合わせてそっとその額に掌をあててみた。
確かに熱い。
大方、この船での慣れない旅のせいで知らずのうちに疲れが溜まっていたのだろう。
「とにかくイズは今すぐ着替えて寝てな」
「…ねむくないよ」
「それでもだよ。俺は氷持ってくるから、ニアはハレに知らせてこい」
「あ、おお!」
まあわざわざ知らせに行かずとも、さきほどのニアの大声はきっと操舵室にまで届いているだろうが。
そんなことを考えながらカイリは一足先に飛び出して行ったニアの後に続いて部屋の出口へ。
しかしそこで一度振り返ってみれば、心なしか不安げな表情のイズがじっと此方に視線を向けていたことに気付き。
一瞬迷って、そして軽く溜め息を吐きながら引き返す。
「…カイリ」
「ごめんな」
「?」
「早くに気付いてやれなくて、ゴメン」
ほんのりと火照った顔。
弱々しい声。そして瞳。
ここ数日、ずっとイズは楽しそうにしていたからすっかり安心していた。
そして安心し過ぎていたのかもしれない。
「ごめんなさい」
「?」
「めーわくかけてごめんなさい」
しょぼん、と。
元々小さな肩をさらに小さく丸めて、呟いた、
…まったく、この子供は。
「お前が謝ることじゃないだろ」
「でも」
「悪いと思うならさっさと寝て、早く直してくれよ。謝ってくれるよりそっちのが全然嬉しいよ、俺は」
「…うん」
―『うん!』
ああ…全然違う。
いつものイズは、そんな「うん」じゃなかった。
大人しく着替えに取り掛かり始めたイズを残してカイリは寝室を出た。
思った以上に、イズの風邪という事実が応えているらしい自分に思わず自嘲的な笑みを浮かべながら、俺は氷を取りにキッチンへと向かうのだった。