第十六話:きょうだい
「…え!?」
「ふふ。実は私、ずっと娘が欲しかったの」
そんな呑気のことを口にするミノリ。
実はセト家は男ばかりの3人兄弟で、カイリが末っ子の弟だった。
…我が母親ながらに、そのマイペースぶりには驚かされてばかりだとカイリは思っていた。
しかしよくよく考えてみると、今の母の提案には1つ気になる所があり思わず口を挟む。
「母さん、ニアは?ニアも一緒に連れてってやれないの」
「…カイリ。無理を言うな」
「だって!離れ離れなんて可哀相だろ!」
ハレ自身、この兄妹を助けてあげたいという気持ちがあった。
しかしカイリよりも若干ではあるが大人な分、冷静に考えてみればいきなり見ず知らずの兄妹を揃って家に引き入れるなんてことは難しいと解っていた。
「あら、大丈夫よ。貴方さえ良ければハレの家に入って貰おうかと考えてるの」
「え!?」
「勿論、貴方の場合は息子としてでなく使用人として。しっかり働いて、お金を稼ぐということを覚えなさい」
「…ニアも助けてくれるの?」
「貴方達がスラムの子を拾ったと聞いた時点でもう中途半端に見捨てることなんて出来ないわ。ここに来る前にシズネにも話はしてきたから」
「母はなんて」
「あの人が嫌と言うはず無いじゃない」
ポカンと呆けるはカイリとハレ。
そしてそれ以上に話について行けつついないニアは困った表情でキョロキョロとしていた。
ミノリはまた穏やかに笑った。
「つまり貴方達は皆兄弟になるの。
…どう、素敵でしょ?」
***
「…お前には少し難しかったか、イズ」
「みんなは兄弟なの?」
「正確には違う…けど、俺にとっては大事な弟のようなものだよ」
イズとハレは既に待ち合わせ場所である公園に戻っていた。
少し約束の時間までには時間があるので、さっき公園の入口の所で売っていたフルーツパイを買い与えてやるとイズ気に入ったらしくペロリと平らげてしまった。
そんな風に、公園のベンチでのんびりとした時間を過ごしながらの話題はハレ達3人の昔話だった。
「俺には姉がいるし、カイリには兄が2人いる、ニアにも妹がいる。でもあの日以来俺達は本当の兄弟以上に長い時間を一緒に過ごしてきたんだ」
「良いな。私一人っ子なの」
「そうなのか」
「うん。でもお兄ちゃんが3人も出来たから嬉しい」
「…そうか」
さきほどハレが買ってやった麦わら帽子の下からこちらを見上げてくるイズの小さな瞳は本当に嬉しそうで、ハレも連られるように表情を緩めた。
「お。いかしたモンかぶってんな」
「オメエら以外と早かったじゃん」
「!…カイリ!ニア!」
―すると、両手に荷物を提げたカイリとニアが戻って来たことに気付いた。
イズは嬉しそうに立ちあがってそちらへ駆け寄って行き、そして頭に乗っていた帽子を脱いで2人の方へ突き出した。
「ハレが買ってくれたよ」
「良かったじゃん」
「似合ってるぜイズ!」
「ホント?」
「ほんとほんと」
ハレは後ろからそんな少女の姿を眺めながら、さっきみたいな寂しげな様子が見えなくなったことにホッとしたのと同時に。
先ほどのイズの台詞を思い出す。
― お兄ちゃんが3人も出来たから嬉しい
彼女はそう言った。
イズにとって、自分達が兄のような存在になれたというなら嬉しかった。
そして少しでもあの小さな少女が寂しい思いをしなくても済むよう、自分達が彼女の家族になってやろうと心に決めたのだった。