第十五話:母親
ニア達兄妹は、つい最近このサンバル諸島本島のすぐ東にある小さな島、ミシマ島からやって来たという。
両親はおらず物心ついた頃から祖母に育てられてきた。
しかしそんな祖母も病気で亡くし兄妹2人きりで生きていくことを余儀なくされた2人は、サンバル本島にいるという唯一の遠い親戚を頼って来たのだが、…これも残念なことによくある話で、子供を2人も引き取る余裕は無いと言われてしまい。
結局2人は僅かに生活資金としてのお金を貰ってその家を出た。
それから暫くの間、町の食堂や酒場から残り物の食材を恵んでもらったり、時には盗みを働きながらという酷い暮らしの中で生きてきた。
しかしそんな時、まだ幼い妹のミナミが倒れたのはもう1週間も前のことだった。
***
「…もう、どうしたら良いかわかんなかったんだ…。金もねえから、病院にもいけなくて…。俺なんかよく食い物とか盗んだりしてたから、町の人から嫌われてて、助けてもらえないし」
ハレとカイリは、近くの使われていない倉庫で隠れるようにして眠っていたニアの妹、ホマレ・ミナミを3人で協力して担いで近くの病院へと運んだ。
幸運なことにその病院の先生がカイリの父親、セカイとの古い友人にあたる人だったようで何も言わずに手を貸してくれたのだった。
ミナミは現在診察を受けており、残されたカイリ達3人は別室で大人しく待っている所である。
「お、俺…なんてこと…!だって、君たちがあのセト家の子供だなんて知らなかったから…」
「だからーもうそんなこと気にするなよ。おれ達だったからこそお前の妹助けられたんだからむしろ良かったんじゃんか」
「だがもし相手が悪ければお前が危ない目にあうか、さいあく憲兵に突き出されることだってある。…もうこんなことしたら駄目だ」
「…うん」
しょんぼりと、項垂れるニア。
そんなニアの姿にカイリは困った様子でハレにこっそりと話しかけた。
「こいつ、これからどうなるんだ?」
「身内がいない以上…どこか住み込みで働かせてもらえる奉公先を見つけないと2人が生きていく道は無い」
「…そっか」
そうしてカイリもハレも、なんとか出来ないのだろうかと子供ながらに頭をひねり始めた、そんな時だった。
…唐突に部屋の扉がノックされる音が響き、3人はそろって顔をそちらへと向ける。
そして次の瞬間部屋に入って来たのはミナミを診察してくれているはずの先生と…そして美しく長い金色の髪を持つ女性。
「カイリ、ハレ」
「母さん!」
「!?」
カイリの言葉に、ニアはビクリと肩を震わせた。
フフ、と穏やかに笑うその彼女の名前はセト・ミノリ
カイリにそっくりな白い肌と美しい金色の髪を持ち、彼女はセカイの留守中しっかりとセト家の当主代理を務めていることで有名な、彼女こそがカイリの母親である。
ニアは、突然のそんな大物の登場に完全に委縮してしまったようだ。
「先生から連絡を貰ったの。貴方達の帰りが遅いから心配していたのよ」
「…ご、ごめんなさい」
「すいませんでした」
「ふふ、何を謝っているの?貴方達はお友達の妹さんを助けてあげたんでしょう?そう聞いているわ」
そう言ってセト・ミノリはカイリとハレの頭を優しく撫でてやり。
2人の間で身体を縮こめてしまってるニアに視線をやった。
「アナタのお名前は?」
「え…」
「お名前、教えてくれるかしら?」
ミノリは、そう優しく微笑んでニアと視線の高さを合わせるようにその場へ膝をついた。
ニアは戸惑いながらも、恐る恐ると言った様子で口を開く。
「…ホマレ・ニア」
「じゃあ妹さんは何ていうの?」
「ミナミ。」
「そう、良い名前だわ。ねえニア、実は貴方にお願いがあるのだけど良いかしら」
「お…おねがい?」
「そうなの。
実はね、貴女の妹さんをうちで引き取らせて欲しいのよ」