第十二話:麦わら帽子
「行こう、イズ」
「…うん」
ハレの言葉に、イズはコクンと頷き歩き出した。
しかし先ほどまでの、市に対する興味はほとんど無くなってしまっているようだった。
ハレは悲しげにそんなイズの様子を眺め…。
そして、その時。
たまたま目に入った通り沿いに並ぶ小さなテントのお店の前で足を止めた。
「ハレ?」
「…こっちだ」
「?」
不思議そうに見上げてくるイズを、ハレは優しく手を引いてそのお店の前までやってきて。
そしてそんなイズの頭上に何か大きなモノを被せた。
赤いリボンの付いた、可愛らしい麦わら帽子だった。
「そのリボン、イズが付けていたあのリボンとよく似ているだろう」
そう言われてイズは一度帽子を取って見てみれば…確かに、と思いだす。
それはカイリに拾われた当初はまだ髪をツインテールに縛っていたあの赤いリボンのことだ。
船に案内されてハレに着替えを貰った時、濡れた髪を拭くためにリボンを取ってそのままにして来てしまったので今は頭に何も付けていなかった。
イズはもう一度、帽子を頭に乗せてみる。
不思議なほどに頭に馴染むソレは、何だか暖かくて。
「お前の黒い髪に、よく似合ってる」
「…本当?」
「ああ。気に入ったか」
「うん」
「そうか」
イズの言葉に、ハレは麦わら帽子の上から優しくポンポンとイズの頭を撫でた。
こうしてハレはお店のお婆さんに帽子の代金を払って、そして再びイズの手を取り2人は歩き出した。
帽子の鍔でイズの表情は見えなくなってしまったが、先ほどよりは心なしか足取りが軽くなったような気がする。
「いろんな所に行って、いろんな物を見て…そして家に帰ったら、お前のお母さんに沢山話をしてやれば良い。必ず俺達が、お前を送ってやるから」
「うん!」
…どうやら、元気になったらしい。
ハレはそのことに安心してホッと息を吐いた。
「ねえねえ、ハレ」
「…なんだ」
「ハレのママはどんな人?」
「俺の、母?」
すると、今度は此方に視線を向けて。
素朴な疑問を投げかけてくるイズに…ハレは首をかしげた。
「ハレは優しいから、ハレのママもすごく優しいママなんだよね」
「ああ…そうだな。俺の母は真面目で、厳しくて…だが優しい人だった」
そんなイズの言葉にハレはフ、と表情を緩めて。
今や遠く離れた故郷にいる家族を思い出せば、ひどく懐かしい気分になった。
いくつになっても家族という存在は、やはり愛おしい存在には変わりないのだ。
「カイリの母親も、素敵な人だったよ」
「!ハレはカイリのママ知ってるの?」
「ああ。…少し、どこかで休もうか」
キラキラ、と
まさに興味津々といった様子の幼い少女の視線を受けハレは苦笑いを浮かべて…そう、切り出した。
「…昔話でも、しよう」