お仕事編1
「おい、お前」
困った感じで声をかけてしまった。いろんなシチュエーションはあったのだが、まさかな。
とある行為におよんでいるニートに声をかけてしまった。
ビクッと周りを見渡すニート。
「真昼間から何してんだ・・・」
追撃もしてしまった。
ニートは固まったまま、声の方向に顔を上げる。
体半分だけ壁から出てる俺を見て大きな声を張り上げた。
「うぁ△〇?ふじを&な@」
布団から飛び上がり、後ろのドア前まで駆け寄り、ドアノブを握り止まる。
「まことちゃんどうしたの?」
母親と思われる声が聞こえてきた。
「ババアなんでもない。あっちいってろ」
まことというニートは声をあらげる。
「ひどい言葉遣いだ。親がお前になにかしたのか?」
「何もない」
ぼそっと聞こえないくらい小声でこたえた。
「なんだ、もうおどろかないのか」
残念そうに言うと。
「もうどうでもいい。幽霊だろうが、死神がお迎えに来たのだろうが、異世界だろうが、どうでもいい」
うんうん。
「わかってるわかってるみなまで言うな。お前の事はよくわかってるぞ。計算でな!。と言ってもどうしようか?」
少し悩む動作をして。
「とりあえず仕事をやろう!」
なにかひらめいた風に手をポンとたたく。
「無理に決まってんだろ」
聞こえないくらいの小さい声。
俺はいい笑顔で
「2回しか面接したことないんだろ。その時いろいろ言われたんだろ。
わかってる。長々と言いたいことはあるが、大丈夫だ。仕事を作るんだからな」
おもむろに、ガラッと窓を開ける。
「さあ、俺と一緒に外を視るぞ」
わわ。ものすごいスピードで肩を抱かれ、外の景色を覗くと、いつもと少し違う景色が広がっていた。
なにかを見せられているような感覚だ。
視た瞬間まぶたを開けていられないような閃光が走った。
まぶたを開けると、またさっきとは少し違う雰囲気の感じがした。
「さあ仕事いくぞ!」
俺はニートの腕を引っ張ろうとしたが、振りほどかれた。
「何を言っているんだ?就職なんてしていないし、そもそも仕事なんてできるわけないだろ。おれみたいなやつが・・」
「なにを言っているんだ?もう就職してるだろ。試用期間で問題を起こさなければだが。ほらさっさと後ろの制服を着ろ!」
? ニートが振り向くと見たことあるような無いような服がハンガーに掛かっていた。
「制服を着て、飯を食って仕事に行くぞ」
俺は、イヤがるニートのてを引っ張り制服をハンガーから取りドアを開ける。
「あら、やっと出てきた。〇〇さんごめんなさいね」
と軽く会釈をする。
「いえいえ、これも仕事の一環ですから。さあご飯を食べよう。いい仕事には栄養補給が必要だ。」
ニートはぽかんとしている。普段部屋から出ないから、出ると驚かれるはずなのだが、そんなそぶりは母親には無い。
まるで普段のような。
ニートはぎごちなない動きで食事をし、支度を整える。
「さあ着るんだ」
制服に袖を通した。もうニートではない。まことに進化したのだ。
まことは俺に腕をイヤイヤ引っ張られながら玄関の扉からゆっくり出た。
嫌がりながらも本気の嫌がりではなかった。
「大丈夫だ。職場は歩いて15分。二日目に設定しといたから、最初のあいさつも無い!そもそもだれとも合うことは無いがな。」
まことはまだ俺に腕を引っ張られながらイヤイヤ歩いている。
まあ、状況を飲み込むことはできないだろう。
倍の30分かかってしまったが、職場についた。
一応公務員の施設の裏口だ。
「さあ着いたぞ!ここがお前の新しい職場だ。部屋は扉を開けてまっすぐ行った左側にB-4番の部屋があるはずだ。安心しろ個室だ」
俺はそっと背中を押すと、まことはゆっくりドアノブをにぎった。
「今日の俺はここまでだ。おまえならできる。一か月後にまた会おう」
その言葉にまことは振り向いたが、誰も居なかった。
まことは少し考え、帰ろうとも思ったが、さっきの「お前ならできる」と期待の言葉が脳裏に浮かんだ。
恐怖を感じながら建物に入った。
中は薄暗く真っすぐ通路が見える。
「まっすぐって言ったよな。あとどっちだっけか。右?左?」
おそるおそる歩いていくと、部屋番号のプレートがうすく光っている。
足元の白線もうすく光っている。
これでは、すれ違う相手の顔も見えないだろう。
まことは対人恐怖症のふしがあり、相手から見えない見られない距離感はありがたかった。
「あ、あった。B-4だったか?」
扉のはり紙に名前が書かれてありここが自分の部屋だと確認できた。
顔を近づけて見てみると、名前が書かれているとはずかしいと思うのであれば、はがしても結構です。
他の仲間に知ってもらいたいなら、そのままでも結構です。
「ん~~~」
ずっと一人で居たいわけではないが、赤の他人に名前を見られるのも抵抗があるような無いような。
いつでもはがせる。いまはこのままでいいかな。
扉のはり紙の名前をもう一度確認しつつゆっくりドアを開け、中を覗き込む。
おー4畳くらいの部屋で、簡易ベッドとデスク、イス、PC。
「個室トイレもか!」
防音もしっかりしていて、空調もちょうどいい。
「すこし狭いが、自分の部屋より快適かも・・」
中に入りドアを閉め、ゆっくりを深呼吸した。
「いいところじゃん。初めてのはずなのに初めてじゃない感じもする?」
あらためて回りを見渡す。
PCデスクの上に数枚の紙があった。
「あーそういえば、仕事しに来たんだった・・・おれにできる仕事なのか?PCだとシステムエンジニアか?無理無理。」
とりあえず読む。まず一枚目。この仕事に関することだ。
このたびは、新たな職業訓練プログラムの参加ありがとうございます。
「ん?そういうことか、ふむふむ。」
この仕事は、〇〇年〇〇月に新たに施行された法律を元に・・・・・・
「長い!どうでもいい」
1ち枚目は横に2枚目を見る。
業務内容
この仕事は、危険運転や違反と思われるドライブレコーダー動画を全国から集め、
違反していると思われる車、ナンバーを特定し、レポート形式で保存する仕事です。
動画編集ソフトは3種類インストール済みですので、好きなソフトをお使いください。
別に使いたいソフトがあるのであれば、要望書を提出していただければ、後日インストールをしておきます。
「へ~それなら俺でも出来るかもしれないな。お!ダビンチ入ってるじゃん。これならすぐ仕事できそうだ。」
この仕事は、編集技能の向上と社会適合、地域の安心安全の向上、
若者の仕事の多様化を進める目標としています。
違反者からの罰金で、編集者へのボーナスがあります。
悪質な危険運転者からは、ボーナスも多めに出ますので、頑張ってください。
「おー!?これだよ!家は、国道沿いで爆音やらなんやらムカついていたんだ。悪者をこらしめてお金がもらえる。こんな仕事がしたかった。」
まことは大きな声を上げて、ハッとしたが、まわりは防音なのを見て、またコシ!と声を張り上げた。
あと、お昼は。ドアの前にお弁当を用意いたしますが、慣れてきましたら、お安くておいしい食堂をご利用していただきたく思います。
無理強いは致しませんので、ご自分の体調と相談していただければと思います。
「うちらに配慮しすぎて怖いくらいだ。俺はやっていけるのだろうか」
そして、1ヶ月が過ぎた。
仕事が終わり、夕食後だろう夜、まことの部屋に顔を出した。
前回は、間が悪すぎたので、そっと気づかれないように少しだけ入って見た。
今回は杞憂だったようだ。
部屋はいくぶキレイになり、PCデスクで作業のような事をしている。
「どうだ元気か?」
デスクの上の壁からひょっこり顔を出し声をかけた。
「そろそろかなって。待っていましたよ。」
まことの顔色がいい。目に生気を感じる。
以前は目の中に絶望が感じられていたが、ここまでよくなるとは思わなかった。
「たくさん話したいことができました。」
「喜んでくれてよかった。作った甲斐があったよ。」
まことはPCをいじりながら話を続ける。
「聞いてくださいよ。悪質ドライバーの動画が3件も上がっていたので、どれだけ悪質かを強調したレポート作って提出したら、
悪質ドライバー免停になったみたいで、すっごくスッキリしました。やりがいありすぎな仕事ですね。
あと、ほんとによく考えられたプログラムですね。びっくりしました。
職場の建物に入る順番など時間で分けて、なるべく他人に合わないようにする配慮。
年齢趣味などこうりょしたメンバー設定。
動画編集だけでなく、UEなどゲームエンジンやBlenderでCG制作とかも学べる。
動画編集は人材が欲しい企業直接指導だから就職しやすいし、他に独立など、言い切れないほどのアフターケア。」
「ああ、お役所仕事の形だけとはわけが違うからな~。おかげで腎臓5個くらい消えた感じだったよ。」
「腎臓って表現はよくわからないですが、大変だったんですね。ありがとうございました。
じつは、職場の友達とゲームを一緒に作ることになりました。これから楽しみです。」
変われば変わるものだ、この男ほんとは礼儀正しい青年なのかもしれない。
小一時間ほどまことの話を聞いてあげた。
「そろそろおいとましますかね」
「もう行ってしまうのですか?」
まことはなごりおしそうに肩をすくめる。
「最後にお前の得意な格闘ゲームをやろう。」
「はい。」
格闘ゲームは始める。二人とも時間を使う消極的なプレイだ。
ゆっくりと決着がつき、まことが勝利する。
「手加減したでしょ。」
「俺の実力はこれくらいだったはずだ。お前の勝ちだ。」
俺はコントローラを床に置き立ち上がる。
「じゃあまたな」
・・・・・
「あ・・」
「お前ならできる」
俺は壁の中へ消えるように入っていく。
なにごともなければ、二度と会うことは無いだろう。五か月後に飛ぶか。
体が量子単位で四散する。
それから五か月後。
体の節々が痛む。状況はどうなったのだろうか?
まことの様子を見に行くか。
夜八時半。いつもの所から顔を出す。
まだ声をかけていないのに目が合う。
「やっと来てくれたか。話したいことがあります。」
声のトーンから真剣さが伝わってくる。
「このプログラムは、あと一年で終わります。なんでこんないいアイデアなのに・・」
「やはりそうなったか。残念だが、こういう国だからだ。」
かなしく、なだめるようにかたる。
「かんたんに話すぞ。」
軽く呼吸を整えて。
「とある組織は、いつもいつも一部の反発の少ない人々からお金を巻き上げていました。
それが、この新しく作った仕事のせいで、国民全体のめんどくさい人々や怖い人達からも
お金を巻き上げるようになってしまいました。
めんどくさい人々が本気で怒ってしまい、自分たちの給料を下げるぞ!言い出しました。
こまった組織の偉い人は、この仕事の悪いところをでっち上げて、廃止するようにしました。チャンチャン」
まことは怒った顔で。
「なんだそれ!?その組織の保身のため正義をないがしろにしろと!」
「あの組織は、決して正義の組織ではないからな。自分たちで勝手に作ったルールでお金を巻き上げ、
正しいとは思えない法律を国民に守らせようとする組織だからな。
あと、お前が作ったレポートで免停になった奴。
じつは大物のドラ息子で、親がカンカンに怒ったみたいで、圧力をかけたんだ。」
「なんなんだよ・・・クソすぎる。」
「それがこの国で生きていくルールなんだ。」
まことの肩に手を置く。
「お前はイヤっていうほど味わっているぞ。」
まことは顔を上げ、少し考えこむ。5秒10秒しただろうか。小声で。
「いじめ?」
「そうだ。そして、お前は何も悪くないのも知っている。この国はお前を守ってくれなかった!?」
こぶしをにぎり、突き出し、力強く語りだす。
「この組織は、弱きものを守ってくれない。これも保身のためだ。
だって、問題が起ころとめんどくさいし、不名誉だろ。だから無かったことにするんだ。
いじめられた方は弱いだろうから、退場を求められるんだ。
いじめた側は、その後、退場させた話を武勇伝として自慢話するんだ。
そして、その組織はこういうんだ。「いじめられる方も悪い。」
いじめられる理由があると・・」
こぶしはさらに力強く。
「そんなわけあるわけねーだろ!いじめた側が100%悪い
どんなとんでも理論だよ。」
まことは少し涙目になり。
「ありがとう。そこまで言ってもらえたのは、あなたがはじめてです。」
「俺の力だけでは、一時的に世界を変えられるが、大きな力に戻されてしまう。
世の中を変えるには、お前たちの若い力が必要だ。」
「この腐った世の中は、恐れていることがある。
それはなにかというと、若者の奮起だ。
学生運動が怖くて、十八歳以下は政治的な活動を禁止しているくらいだ。
忖度やしがらみの無い、きれいでまっすぐな言葉を聞きたくないのだろう。
だから、お前には頑張ってほしい。これからを。」
まことは、うなずき。
「わからないけど、わかったよ。情熱は。」
「すまないな。俺ができるのはここまでみたいだ。」
「謝ることは無い。ありがとう。ここまでしてくれて。」
「ほんとに急ですまない。時間がないみたいだ。最後に。」
俺の体は、量子になり消えようとしていた。
「お前ならできる。だろ。」
俺は、消えそうになりながら、満面の笑顔で。
「だ。」
さいごの言葉を残して消えた。




