最終話 「沢山良いものを作れます」は結果にしか過ぎない。
☆☆☆ドワーフの回想
「リサ・ムラタは、ドワーフの奥義をすでに、身につけている。それは、ムラタ家の始祖、ヒデオ・ムラタ殿から、薫陶を受けている・・・
ヒデオ・ムラタ殿は、かの地で、製鉄所の技術者であった」
・・・
煙突だけで、数百メートルあるとか何とかの話だ。
それに、かの地の技術者だ。
どんなにすごいものかと、思って、ドワーフ国は、ヒデオ殿の工房に、視察団を派遣したのだ。
ワシも参加した。
しかし、ワシらは、落胆した。
ヒデオ殿は、
「ここ、危ねえぞ」
「ここに、物をおくんじゃねえ」
「おい!高い所に昇るときは、俺に言えって、言ったよな!言うことを聞けないなら、クビにするぞ!」
こんなことばかり言っている。
当時、反射炉を作る計画だったが、
私たちは、それが理解出来ないから、フイゴがないじゃないかとか。
見るべきものがないと思っておったわ。
しかし、
当時のドワーフ王は、
「ヒデオ殿は、作業中、何を言っていたか?」
とたずねられた。
「はい、『気を付けろ』ばっかりです。参考になりません」
「はあ、ヒデオ殿は、もう、その境地に達しておられたのか・・・」
「「「えっ」」」
「これは、口だけでは理解出来ない。頭で理解出来ても、実行できなければまるで意味はない。お前らが、そう感じたと言うことは、2流、3流・・・徒弟未満と言っても良い」
「しかし、私たちは、それぞれの分野で、良いものを沢山つくれます!それの何がいけないのですか?」
「だからだ。愛がないのだ。偏屈だけど、腕はいい。そんな者は、まがい物なのだ・・」
・・・・
「それからだ。その意味がやっと、分ったのは、3年後、火事が起きた。仕事を沢山やるために、燃えやすい木箱に入った燃える魔石を炉の近くにおいておいた。
あっと、言う間に、燃えて、工房が燃え尽きた・・・工房だけならいい。家族と弟子を失った。
全てのものを失ってやっと分った。
ヒデオ殿がやっていたのは、かの地では、『安全第一』と言うのだな」
☆地球
1920年代
アメリカ、USスチール社
当時、世界は、安全第3であった。作業の序列は、出来高1、品質2,安全3であった。
しかし、この会社の社長は、単純に、怪我をする自社の社員を憐れみ。
『我が社は、安全第一でやる!』
と宣言。
この社長は、キリスト教の友愛思想に基づいて安全第1にしたとされる。
事故が起きなければ、成果はどうでも良いとも取れる。
人は安全第一にしてもさぼらない。
性善説を採用したとも取れるが、
しかし、その結果、事故が減り。事故に対処する時間が減ったことで作業時間が増えて、出来高があがり。人がやめなくなったので、熟練工が育ち、品質も上がり始めた。
それ以降、資本主義国家は、安全第一が作業の基本になり。法令にまで影響されている。
あくまでも、良い仕事は、安全な環境の結果にしか過ぎない。
☆リサ・ムラタ視点
「ふう~皆様に、退職金です。ムラタ刀です。ええ、これは、ニホン刀の形をした軍刀ですから、売る際に、この鑑定ギルドの鑑定書を必ずつけて下さいね」
「「「お嬢様!!」」」
「どうか。お言葉を・・」
「分りました。作業の優勢順位は、安全第一、品質第二、出来高第三で、作業して下さい。
品質も、出来高も、安全に作業した結果なのです。これは、かの世界の製造業の基本です」
「しかし、その作業順位をされているのは、お嬢様だけの工房で、他は・・」
「大丈夫です。ワシム陛下は、その作業手順でマニュアル化すると言っていました。紹介書も入っていますよ」
「お嬢様は、どちらへ」
「もう、ニラヤマ型反射炉は、陛下の命令により、無くなりましたわ・・・時計ギルドに行って、バネの技術を習うか。錬金術士ギルドに行って、薬剤の研究をするか迷っていますわ」
そして、私は、子供のころから育った領地を出た。
なるべく、街道を通っていたら、街中が、騒がしい。
「大変だ。増税王と馬鹿王子が、大国の王族を怒らせて、市街戦が発生したらしいぞ」
「王都の方で、内乱?大国の兵団が暴れている?準男爵位以上の貴族は緊急招集?」
まあ、私には関係ないのだけどもね。
「あれ」
取り囲まれた。相手は、騎士団だ。
「貴様!黒髪に、青目か?お前は、リサ・ムラタだな!」
「えっ、そうですけど、私、貴族籍を抜け出しましたから」
「喜べ。また、貴族に復帰する命令が発せられた。子爵家に任ずる!早急に、王宮に戻り。ホラズム殿下の側妃になる権利を与える」
「断ります」
「「「逮捕だ!」」」
パン!パン!パン!
カチャ、カチャ
「「「ヒィ、何だこれは!」」」
私は銃を撃った。勿論、当ててない。足下に向けて撃った。
これは、祖父の文献に書かれてあった元込め式ライフル銃だ。
私の工房は、
地球で言うと、19世紀のアームストロング砲の素材と同じレベルの鉄鋼を作れる。
手作業の感覚で、金属を切磋、摩耗し、ライフル線条を刻むことにも成功したが、課題は多い。
バネは弱いし、薬剤の供給も安定しない。
パタパタパタ!
その時、空から馬が飛んできた。
スランが運んできた。妖精馬である。
「ヒヒ~~ン。お姉ちゃん!乗って、乗って」
「馬が話したわ!」
私は、馬に乗って、この国を出た。
「お姉ちゃん!どこに行きたい!」
「まずは、安全な所ね。貴方のお名前は?」
「ヒヒ~~ン、つけていいよ」
妖精馬は、心の綺麗な人しか乗せないと言われている。
安全第一を取る者は、収益よりも、人の命を大事にする決意をした者である。
だから、妖精馬は、リサを乗せたのかもしれない。
実は、この元ネタは、日本の職人の話で、
名人の現場を見学に行ったら、名人は、「気を付けろ」しか言っていない。
本当に名人だろうか?
→武道の達人や、一流スポーツ選手と同じ心理状態
と、安全第一の発祥の話を合わせたものです。
経験として、安全第一が作業の基本として分っている者もいたが、近代の工場レベルで、安全第一が叫ばれ始めたのは、1920年代のアメリカから、という話です。
最後まで目を通して頂いて有難うございました。




