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ルカとジョーと秘密のスズラン  作者: しんた☆
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第8章 目覚めるとき 4

 その日、コートミスティでは久しぶりの夜会が開かれていた。主催が国王とあって、国中の貴族が集まっている華やかな宴だ。大ホールにはきらびやかなシャンデリアに負けない宝石の様に着飾った淑女達、そして、それに付き添う上品で穏やかな紳士たちが、飲み物を片手に談笑している。

 そこでは、数か月前のイーダの侵攻とスタンリアとの交流についての話題がほとんどだ。


「失礼、あなたがマンチェスター子爵殿ですか? 私はスタイレイとの交易をおこなっているブルックリンと申します。一度ご挨拶したいと思っていたのです。」

「おいおい、今私がお話しようとしていたところだ。待ちたまえ。私は、農地を多く治めているファーマーと申します。貴殿と同じ子爵です。今後ともどうぞよろしく。」


 次々に挨拶されて、ダニエルは大慌てだ。どうしてこんなに急に挨拶されるのかというと、もちろん、彼がルカの父親だと世間に知られてしまったからだ。


「はぁ、だから夜会は苦手なんだ」

「ははは。父上、諦めてください。こんなにおいしい話がゴロゴロ転がり込んでくることなんて、めったにありませんよ。それに、ルカのお陰で罠の仕掛けられたものも見当たらない。本当に親孝行な奴ですね。」


 はぁっと肩を落としてアランを見上げる父には、ルカは手の届かない存在に思えて仕方がない。近くで一緒に暮らしていけるだろうなどと、なんとなく考えていた自分が恥ずかしい。

 ダニエルは、まだ姿を現さない今日の主役を緞帳の向こうに思い描いていた。


 すると、音楽が鳴りだし、アレックスが王妃ジュリアを伴って会場に姿を現した。


「今日の良き日に皆が集まってくれて、嬉しく思う。今日、この会を開いたのは他でもない、我が友であり、尊敬してやまないグレース・アリア様の一番弟子、ルカ・マンチェスターがルカ・マンチェスター・プチソシェ公爵となったことを発表するためだ。彼の功績は皆も知っている通りだ。そして、アリア様の子孫であるルカは、成功と共に我らが王族のサファイアの瞳を手に入れたのだ。ルカ、こちらに来て、皆に見せるがよい」


 アレックスの言葉に従って、正装のルカがゆっくり上がった緞帳から姿を現した。その瞳の色にその場にいた者は圧倒された。


「まぁ、なんて美しい青なんでしょう。」

「幾度かの戦いのうちに、随分と大人びて来られたわ。」

「うちの娘を嫁にどうだろうか?」


 貴族たちは口々にルカに言葉を投げかける。


「静まれ! ルカ、せっかくだからおまえが思い描く領地経営について語ってみろ。」


 アレックスの一言で、その場がしんっと静まり返った。ここでルカがどんな考えを示すのか、それは、今後の貴族社会の構図すら変えてしまうことになるだろう。


「僕は、子爵家の次男として生まれました。寛容な両親の庇護の元、自分の希望で貴族ではない学校にも通いました。あの頃、前王の政治が続いていた頃、この国はひどい身分制度による差別が横行していました。どんなにまじめにしていても、認めてもらえない。高学歴の貴族に不当に搾取される。そんな世の中を変えたいと強く望んできました。今、アレックス陛下の代に変わり、世の中は随分良くなってきたと、陛下の偉大さに敬意を表します。これからは、誰もが、食べること、寝るところに不自由しない。能力に合わせて仕事を選べる。そんな世の中にしていきたいと思っています。我らが偉大なるアレックス陛下の元、すべての国民が、幸福で豊かであり続けるよう尽力したいと思います。」


 じっと聞き入っていた貴族から、一人、二人と拍手が沸き起こり、うねりを伴って会場中を埋め尽くした。


「いい演説だった。さぁ、今日はルカの受爵パーティーだ。存分に楽しんでくれ。」


 国王の声で、再び会場は明るい笑い声や話し声ににぎわった。上位貴族から順々にルカに挨拶しようと並び始める。どの貴族も、突然上位貴族になったルカを咎めることはない。その魔力、知力、そしてあのサファイアの瞳だ。敵に回してもいいことなどないのだ。


 さっそく自分の娘を売り込む者もあらわれ、ルカを困惑させた。しどろもどろになるルカを助けるのはアーチャーだ。


「おい、ルカ。あんな連中に振り回されていたらダメだぞ。にっこり微笑んで『考えておきましょう』これで終わりだ。」

「ええ、なんだか胡散臭いなぁ。」

「なんだと?!」


 アーチャーが睨んでいると、ロベールが挨拶にやってきた。


「ルカ、まさかお前が公爵になるとはな。」

「サミュエル・ロベール。君もさっさと自分の実力で上がって来てくれ。頼りにしているんだ。」

「なっ!…まったく、仕方がない。すぐにのし上がってやるからそれまで引きずり降ろされないように待ってろ。」

「頼んだよ。ジョーをしっかり鍛えて、二人で僕の側近になってほしいんだ」

「フンっ」


 ロベールと入れ替わるようにやってきたのは、祖父のイアンだ。イアンはルカの姿を見るなり、さっと右手を差し出した。そして二人は硬く握手を交わし、頷き合った。



 その後も次々と貴族からの挨拶をうけ、やっと席に戻ってきたところで、アレックスがそっとルカの耳元で声を掛ける。


「ところでルカ。おまえもそろそろ身を固める年頃だと思うのだが、俺が相手を見繕ってやろうか?」

「陛下!そ、その。ぼ、僕には心に決めた人がいます!」


 貴族の結婚なんて、自由が利かないものだとパットから聞かされていたルカは、真剣なまなざしで訴えた。


「ほう。して、それはどこの誰かな?」

「ホリー王女殿下です。」


 目を見開いて固まるアレックスを負けじとじっと見つめるルカ。


「知ってたくせに、わざとらしいですよ。陛下。」

「う~ん、確かに気づいてはいたが、こんな風に面と向かってはっきりと言われると、案外ショックが大きいものだな。はぁ、仕方がないか。」


 アーチャーの指摘に、肩をあげて諦めるアレックスは、それでもこのままでは済ませられないと、ルカに課題を言い渡した。


「今からダンスタイムになる。今夜の主催は俺だから、まずは俺とジュリアが踊る。その後、ルカはホリーを連れてホールの真ん中に出て、思いのたけを見せつけて見ろ。それなら、考えてやる。」

「ええっ!!」


 驚くルカを置いて、アレックスはさっさとジュリアをエスコートしてホールの真ん中へと進んでいった。


「ルカ、急がないと時間がないぞ。動くなら今だ。」


 意外にも真剣な顔のアーチャーが声を掛けた。その勢いに押されて、ルカは立ち上がり、ローリーと共に上座に座っていたホリーに向かって歩き出す。


「ホリー殿下、僕と踊っていただけませんか?」


 驚きすぎて目を見開いたまま動けなくなったホリーに、ローリーの突っ込みが入る。


「おいおい、そのまま動かないなら、僕が代わりに踊らされる羽目になるんだぞ。早く動け!」

「い、嫌だわ。私ったら、びっくりして…。ルカ様、喜んで。」


 国王夫妻が退いた後にやってきた若いカップルを、貴族たちは優しい目で見守る。


「ルカ様のお相手はどなた?あら、あのやんちゃな姫様があんなに素敵な女性になっていたの?」

「お二人とも、初々しいのにとても優雅だわ。」

「ルカ様と踊りたかったのに。どこのご令嬢かしら。あんなに見つめ合って…。」


 会場のあちらこちらでため息が漏れる。そして、曲が終わると、ルカはそっと彼女の前に跪いた。会場中の貴族が見守る中、ルカは、ふわっと片手を振り上げると、彼女の上からキラキラと光の花びらが舞い下りて、その手に大きなバラの花束が現われる。


「ホリー王女。どうか、僕と結婚してください。」

「!!」


 零れ落ちそうなほど大きく見開かれたサファイアの瞳は、頷いてもいいかとアレックスに乞う。その国王の眉を下げた笑顔に安心したホリーは、心からの笑顔で「はい。」と答えたのだった。あまりの嬉しさに、気が付けば彼女をしっかりと抱きしめて「やったー!」と叫んでいた。


「る、ルカ様!?」


 とたんに、会場中にバラの花びらがぱっと広がり、拍手する貴族たちの肩にも舞い降りる。


「ルカ、おめでとう。しかし、本領を発揮するのはこれからだぞ。心してかかれ!」


 アリアが壁から抜け出して声を掛けた。


「師匠!ありがとうございます。彼女と二人で、きっと!」


次が最終話です。どうか最後までおつきあいを。

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