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ルカとジョーと秘密のスズラン  作者: しんた☆
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第7章 試練 5

 ロベール達が駆け付けると、陸橋になった部分がすっかり姿を消していた。


「ここまでとは…。これでは復旧にも時間がかかるな。」


 考えていると遠くで馬車ではなく車の音がして、部隊長を驚かせた。陸橋がなければ、目の前の谷を降りなければ隣国に渡れない。その目の前をイーダの兵士らしき軍団が続々と進んでいくのが見えるだの。


「お前たち、急いでこの谷を越えろ!イーダがスタンリアに進軍しているぞ!」

「隊長、この谷をですか?」

「泣き言を言うな!」


 怒鳴っては見たが、確かに険しい道のりだ。向こう岸に辿り着いても、その時点で疲労困憊だろう。


「こ、これはひどい!」


 後ろから、若い声がして振り向くと、グリフィンが近づいていた。


「ロベール、僕が運んであげる!早く捕まって!」

「おまえは、ルカか!」

「そうだよ。こんな谷を降りていたら、間に合わないよ」

「助かる」


 そんなやりとりさえ、ルカを悔しがらせる。いつものロベールがそこにいるというのに、いったいどんな風に変わってしまうんだろう。ルカは、その足にずっしりと重さを感じながら、一気に谷を渡っていった。


 二人は先回りしてスタンリアの村に入る前の道に降り立つと、ロベールはやってくるジープを氷魔法で停止させた。その隙にルカは魔法で土を膨張させて土塀を作り、イーダの行く手を阻んだ。


 イーダのジープが数台停止したかと思うと、幌が上がって、中から大砲状のものが出てきた。


「はははは。お前たちが絵本の中から出てきたという魔法使いさんか?さて、そんな時代遅れな力で俺たちを防げるというのかな?」


 そんな声が聞こえたかと思うと、遠くでドーンと雷が落ちたような音がした。振り返ると、スタンリアのあちらこちらの村で炎が上がっている。


「なんてことを!イーダの国王とは、すでに話し合いすることが決まっている。今は攻撃の時ではないはずだ!」

「あはははは。その国王は、お前たちに寄って殺される手筈になっている。諦めろ」


 ルカはぐっと歯を食いしばって睨みつけている。スタンリアでも、消防団が動きだした。村々の若い衆が懸命に活動しているのが分かる。それでも、次々大砲を打ちまくっている。


「ロベール、ひとまず火消しに回ってくれ!」

「承知。」


 ロベールはすぐさま踵を返して、村の中に掛けて行った。ルカは、すぐさま大砲を結界の中に閉じ込めた。すると、勢いのまま発砲した大砲は結界の中で自滅。


「ふん。少しは頭が回るようだな。ルカ・マンチェスター。姉を攫われた気分はどうだ?」

「こちらのことは、調査済みということか。で、自分の名前は名乗らないのか?」


ジープの扉が開いて、軍人とは程遠いすらりとした長身の男が現われた。


「私か?私は、レオニード・イオーノフ。この軍を指揮している。」

「どうして罪のない村を襲うんだ!」

「どうして? 野蛮な暮らしをしている連中が淘汰されるのは世の常ではないかね?そちらが邪魔をするというのなら、コートミスティも一緒に支配下においてやってもいいぞ。どうせ、スタンリアの次にはそちらに向かう予定だったのだ。」


 ルカは、頭に血が上りそうになるのを必死で抑えていた。何の罪もないスカーレットを誘拐しただけでも許せないのに、隣国を野蛮と蔑んで自分の物にする?そして今度は我が国までも? どこまで傲慢なんだ。ルカは、その左手の指輪に意識を集中させ、レオニードに向けて魔力を撃つ。


「ストレートタイフー… クハっ!」


 周りの草木が風圧に持って行かれる。レオニードに向かって飛び出したはずの魔力の塊は微かにそれた。そしてどさっという音と共に片膝をついたのは、ルカだ。腕からは血が流れている。

 とっさに振り向いた先にいたのは、無表情に見つめるロベールだった。


「これか。…ロベール!どうしたんだ、しっかりしろ!」

「…」


 ルカの叫び声がむなしく響く。それを眺めていたレオニードがクククっと笑いをかみ殺していた。



その時、やっと谷を越えてきたコートミスティの武官たちが駆け寄ってきた。


「部隊長、ご無事ですか?」

「ルカ殿。どうされました?」


 やっと谷を越えられてほっとした表情の武官たちに、ロベールの目が向いた。


「ダメだ!みんな逃げて!」


ルカが叫ぶ中、「やれ」と司令官がつぶやくと、ロベールは、もうルカには見向きもせずに部隊長を慕ってやってきた武官たちを次々と氷魔法で倒していく。

 アイスソードで腕を落とされる者、ブリーズで凍結してしまう者、氷の剣で串刺しにされる者。目の前は地獄絵図と化していった。


 村の火事を救ってくれたと、応援に駆け付けていたスタンリアの村人たちも、容赦なく襲っていく。


「なんてことを…。どうしたら、止められる?」


 腕の痛みで意識が飛びそうになるのを、必死で堪えながらルカは思考を巡らせた。


「そうだ!これなら…。 許せ、ロベール。サンダードラゴン!!」


 ふらつく体を奮い立たせ、ルカは、人々を傷つけ続けるロベールに特大の雷を落とした。ドドドドと激しい音と共に、ロベールは打ちのめされ、その場に倒れた。


「なんてことをするんだ。ロベールは、お前たちの兵器なんかじゃないぞ!…もう、手加減なしでもいいよね。」


 指輪の宝石からめらめらと光が立ち上っている。それに反応して、ルカの瞳もすっかり深いサファイア色に変化している。いつもの柔らかな表情はなりを潜め、鋭いまなざしがレオニードに向く。


「始末させてもらうよ。」


 途端に嵐のような風が吹き荒れ、青みがかった黒髪をなびかせていく。一旦閉じられた瞳は、次の瞬間、レオニードを射抜き、すっと持ち上げた左手の人差し指から一気に突風がレオニードを襲った。


「う、うぐっ!!」


 叫び声をあげることもなく、レオニードの左胸に大きな穴が開けられた。驚愕に目を見開いたままのその体がどさっと地面に転がると、イーダの軍人たちは、一気に統制を失った。


「そいつを置いて、さっさと自国に帰れ。」

「う、うわぁ!! 化け物だ!」

「た、助けてくれ!」

「殺される!!」


 退散はあっという間だった。イーダ軍の全てが逃げ去った後には、焦げた草木の匂いと、血なまぐさい空気が漂っていた。


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