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ルカとジョーと秘密のスズラン  作者: しんた☆
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第5章 本領 3

 ルカがやってきたのは、懐かしいアリアの自宅だ。学生時代、幾度この家を訪ねたことだろう。ベルを鳴らすと、いつまで経ってもちっとも年を取らないアリアが出てきた。


「ルカ!大きくなったなぁ!」

「師匠、ご無沙汰しております。姉の結婚式に素敵なお花をありがとうございました。両親もとても喜んでおりました。」


 そんな風に話しながら、そういえば、アリアの顔が少し自分より下にあることに気が付いた。そうか、僕もそれなりに背が伸びていたのか。ふっと素直にそんな風に思えたのは、子どものころから世話になっていたアリアの前だからだろう。


「いいところにやってきたな。先日から、昔の弟子の事を考えていてな。ルカの様に、再び才能を開花させられる者がいるかもしれないと思っていたんだ。」

「師匠の弟子は、皆さん無くなってしまわれたと聞いていますが、祖父の様に子孫を残していた人もいたのですか?」


 う~んと、首をかしげるアリアが、手元のあったメモ用紙に何か書き記している。ルカが覗き込むと、そこには、T&V・R・Mの文字が並んでいた。



「このTというのは、私の子孫・ルカの祖父のテイラー家なんだが、他にも優秀な弟子がいてな。それぞれ得意分野は違うのだが、弱い部分は補い合ってやっていた。まあ、この3人は弟子の中でもリーダー的存在だったんだ。」


 ルカやアーチャーに出会えたことで、少なからず希望を抱くアリアだった。


「そうだ。王宮の中に魔術の鍛錬場を作ってはどうだろう。お前たちも仕事の後で鍛錬しておいた方がいいだろう。それにつられて弟子の子孫たちが吸い寄せられたら楽なんだがな。」

「え?王宮に?!」

「ああ、西側の武道場の奥にでも作ればいいんじゃないか。明日さっそくアレックスに打診するか。」


 ルカは胡乱気な目で師匠をみていた。アレックスの婚姻が正式に決まって、タダでさえ慌ただしいのに、そんなことに回せる人材があるとは思えない。そうでなくても、アリアがするはずだった仕事は、ルカに回ってきているのだ。

 思わず大きなため息が出た。


 しかし、ルカの予想とは裏腹に、それから一月もしないうちに、見眼麗しい豪奢な館が王宮の西エリアに出来上がっていた。鍛錬場は天井が高く、強力な結界が貼られて、安全に配慮されている。鍛錬場の横には、シャワールームやロッカールーム、食堂まで併設されていた。


『こんな時だけ嬉々として力を発揮するんだから!』


 仕事を終えてアリアに呼び出されたルカとジョーから、呆れた様なため息が漏れた。


 それからは、仕事の終わりにはこの鍛錬場に立ち寄って、アリアの残したメニューをこなす日々が続いた。



「臨時会議だ。新人武官集合!」


 宿舎内に伝令が響いた。仕事上がりでのんびりしていたジョーのルームメイトたちも、慌てて支度する。


「あれ?ジョーは?」

「ああ、あいつならまたルカのところじゃないか?ほんと、仲がいいよなぁ。」

「呼びに行かないとまずいんじゃないか?」


 バタバタと準備をしながら話していると、突然ドアが開かれ、指揮官が入ってきた。


「おまえたち、遅すぎる!さっさと準備しろ!常に緊張感を持て!」


 新人たちは慌てて会議室に向かった。


「全員そろっているか?」


 会議室最奥で、じっと新人たちの様子を見ていた部隊長が、静かに確認した。銀髪にブルーグレイの瞳、肌の色も透き通るように白い。およそ武官には似つかわしくない容姿のその男は、鋭い視線で空席を見つめている。


「陛下のご成婚式までに、何かあっては我々の沽券にかかわる。常に緊張感をもって過ごす様に。今日の招集では不合格だ。明日、早朝訓練を行う。明日は5時に武道場集合だ。以上!」


 ぞろぞろと宿舎に帰っていく若い武官を見送って、指揮官の一人が部隊長に声を掛けた。


「ロベール隊長、今日こちらを欠席していたのは、新人のジョー・スタンレイです。彼は、アーチャー首相からの指示で、勤務後別件で行動していると聞いております。」

「首相からの指示? その報告、こちらには届いていないぞ。たるんでいるのは、新人だけではなさそうだな。グラハム、明日はおまえも5時に集合だ。」

「も、申し訳ございません!」


 ロベールは会議室を離れ、廊下から見える真新しい建物に目をやった。最近、自分の知らないところで何かが動いている。それは、彼にとって不愉快極まりないことだった。


 翌日の勤務時間後、いつものように鍛錬場に向かうジョーの後はつける人物がいた。


「ジョー、お疲れ。」

「ああ、お疲れ。トレーニングメニューはあと少しで終了だな。」

「そろそろ師匠が来るかもしれないね。」


 それぞれがメニューをこなしていると、突然鍛錬場の扉が開いて男が入ってきた。


「お前たち、何をしている!?」


 驚いた二人が振り返ると、人を殺せそうなほどの鋭い視線のロベールがいた。


「うわっ!部隊長!こ、これは、アーチャー首相と師匠からの指示で行っている訓練であります!」

「俺のところにそんな連絡は入っていない!お前たち、王宮内の施設を勝手に使っていいと思っているのか!」


鍛錬場に冷たい声が響き渡った。銀髪、白すぎる肌、そして凍てつきそうなブルーグレイの瞳。そこにいるだけで、室内にブリザードが吹き荒れるような冷たい空気をまとうこの男は、ジョーからふっと視線を外したかと思うと、今度はルカに向き直る。


「ほう。おまえは確か、首席で入った文官だったな。いろいろ噂は耳にしている。首相と繋がりがあるとか。だがな、この王宮を守っているのは俺たち武官だ。お前たちの好きにはさせん。」

「ふう。武官の、皆さんの活躍を否定する気はありません。まずは、自己紹介を。おっしゃる通り、僕は新人文官のルカ・マンチェスターです。サミュエル・ロベール部隊長殿」


 先に名前を言い当てられ、ロベールの顔つきが変わった。傍にいたジョーはおろおろするばかりだ。


「なぜおまえが俺の名前を知っている?」

「それについては、私が答えよう。」


 鍛錬場の奥から、小さな靴音がやってきた。


「何者だ!」

「私の名前はグレース・アリア。正式にはアリア・コートミスティだ。」

「コートミス…!! ではあなたが解呪され、再びこの国を守っているという魔法使いなのか。」

「いかにも。ここは、陛下とアーチャーと協議の上で建てた鍛錬場だ。そこにおぬしの了解は必要なのか、ロベール」


 冷たい瞳は、それでもまだ納得がいかない様だ。


「気に入らないようだな。ならば、かかってくればいい。ここは鍛錬場だ。すきなだけ暴れてみればいい」


 ドラゴンの呪いをかけられて以来、加齢が止まってしまったアリアは、華奢な体つきに若い娘のような風貌だ。その見た目と仙人のような口調にロベールは内心イライラしていた。


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