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ルカとジョーと秘密のスズラン  作者: しんた☆
23/46

第5 本領 1

 それからしばらくは、学校と魔術の修行それに、アーチャーが推薦した家庭教師を招いて、夜間は政治学の勉強と、寝る間を惜しむ勢いで時間が過ぎて行った。そして、ついに、王宮での採用試験が始まった。

 コートミスティ王国の王宮職の採用試験は、軍に仕える武官のコース、政務に充たる政務官コースとその下働きおn文官コース。それとは別に要人警護の騎士団と女性要人の警護と補助をする女官コースがある。生活の補助をする侍女は、貴族令嬢が採用され、それぞれ要人本人が採用することになっている。

 アーチャーの後を目指すルカは、政務官を目指したいところだが、その倍率は非常に高く、人脈がないと合格後の仕事に差し支えると言われているので、文官の試験を受けることになった。


 会場には、多くの貴族令息が集まったが、その多くが財力を見せつけようと派手な衣装を身に着けていた。ルカは、その競い合いに巻き込まれないよう、そそと受付を済ませて、指定の席に落ち着いた。会場の真ん中を王者のごとく練り歩く派手な衣装の人物は、侯爵家の嫡男だ。その周りを気づかわし気に歩く伯爵家の令息たちがなんとも滑稽だとルカは思う。


「今日ここに来た者に一言言っておく。俺はワーナー侯爵家嫡男、グレン・ワーナーだ。お前たちの上司になるだろうから、俺より目立つ行動を起こすなよ。」


 朗々と宣言すると、真ん中の席についていた受験生を引きづり下して、どっしりと太った体を椅子にめり込ませた。そして、ふとルカを見つけると、自分のところに来いと呼びつけた。むっとしたルカは、グレンの前に進み出ると挑むように言う。


「そこは、本当に君の席なのか?」

「そんなことどうでもいい。それよりまずは、よろしくお願いしますだろ。お前、ルカ・マンチェスターか?」

「そうだ。」

「姉上がお前の絵姿を持っていたんだ。魔術が出来るそうじゃないか。ここで俺に披露してみせろ」


 にやにやといやらしい笑いを浮かべて命令するグレンに、ルカは小さくため息をついて答えた。


「断る。これから試験なのに、くだらないことを言わないでもらいたい。」

「なんだと?! この試験、合格したくないのか?」

「合否は家柄で決まる物じゃない。それに、席は指定されているはずだ。そんな基本的なルールも守れない人物が合格するとは思えない。」


 途端に顔を真っ赤にして、グレンはルカの胸元をねじ上げ、右手を大きく振り上げた。


「なんだとぉ!」

「こらー!やめんか!その手を振り下ろしたら、即刻不合格だ!」


 後ろからどすの利いた声が飛び込んだ。


「お前たち、すぐ席に着きなさい。」

「申し訳ございません。」


 試験監督がグレンの腕を掴んで、無理やり手を離させたので、ルカはすぐに身だしなみを整えて席に戻った。


「お前はどうする?試験を受けるのか、それともしっぽを巻いて帰るのか?」


 グレンはぐぐっと苦し気な声をあげて、しぶしぶ自分の席を探して座った。


 半日を費やす試験が終わると、結果はその日の午後から発表される。受験生は思い思いの場所で昼食を取って結果発表を待つのだ。


 ふうと、大きく息を吐いてルカが立ち上がると、後ろから肩をぽんと叩かれた。


「ルカ、どうだった?」

「アーチャー首相!一応、全部解けました。受験は初めてでしたが、いい経験になりました。」

「ふふ。そうか。まあ、文官になったところで、その半分は俺の仕事の手伝いに引っ張り出す予定だがな。じゃあ。」


 気まぐれにやって来て、さっさと帰っていくこの国の重要人物を、ぽかんと見送るルカだったが、その会場のほとんどの受験生がそんなルカを驚愕の目で見つめていた。文官の試験はそれなりに難易度が高く、全問正解する者はほとんどいないと言われているのだ。試験前に騒動を起こしたグレンは、そんな様子を見ると、そそくさとその場を脱出した。


 昼食は、武官の試験を受けているジョーと共に食堂に向かった。


「どうだった?手ごたえのほどは?」

「いやぁ、ヘロヘロだよ。武官って、ホントに体力勝負なんだな。俺は武道の訓練なんて受けていなかったけど、なんとかついていけそうだった。逆に魔術を使わずに戦わないといけないのが、きつかったけどな。なんだか貴族ご令息様が幅効かせててな。対戦してこっちが勝ったら、生意気だとか言われたよ。」

「やっぱりそっちにもそういうのがいたのか。」


 憤るルカに、いつもの事だとあきらめムードのジョーだった。


 午後になって、それぞれ合格者が発表されると、無事二人とも合格していた。ルカは1位合格でグレンの名前は載っていなかった。


 早速合格者説明会に参加した二人は、それぞれ宿舎に移り住むことになった。


「ジョーと一緒にルームシェアしたかったのになぁ。」

「仕方ないさ。こっちは軍専門の宿舎があるし、新人ばかり6人部屋に入るそうだ。」

「こっちも文官の宿舎に入るみたい。2人部屋だってさ。」

「ルカは、首相の補助の仕事もあるから大変だなぁ。」

「え?」


 何気なく話すジョーの言葉に、一瞬固まってしまったルカだった。そんな話は聞いていない。


「あれ?聞いてないのか? この前ローリー殿下のお茶会に行ったとき、首相がそう言ってたんだ。それでさ。俺にも、しっかり魔術を磨いておいてくれ。頼りにしているって、言ってくれたんだぜ。首相って、いい人だなぁ」


 身分にこだわらず頼ってもらえたことが嬉しかったのか、ご機嫌で話すジョーは、ルカの驚きには気づけなかった。そういう事だったのかと、試験会場に来たアーチャーの言葉を思い返すルカだった。



 いよいよ王宮宿舎にやってきた新人は4人。みんな貴族令息ばかりだ。


「君、学校では見かけなかったけど、遠くの地方から来ているのかい?」

「いえ、僕は平民の学校に通っていたんです。子爵の次男だし、爵位はもらえないだろうから」

「え?平民の学校? そ、そうなんだ。」

「平民の学校にわざわざ通うなんて、変わってるね。下品で知性の無い人たちと交流するのはどうかと思うよ。」


 男爵や子爵の令息たちは、これでもかと貴族らしい言い方をする。しかし、ルカにはどうでもいいことだった。平民の現状を知らないで、威張っているだけでは、政治はできない。前にアーチャーから聞いた言葉だ。


それぞれの配属先に分かれて部屋割りされる。ラッキーなことに、ルカと同室になるのは、パトリック・モルト。伯爵令息だ。上級貴族だけあって冷静でおとなしく、知的な雰囲気だ。


「ルカ・マンチェスターです。よろしくお願いします。」

「あ、君は!試験の時はありがとう。胸のすく想いだったよ!」


 ルカを見た途端、ぱっと明るい笑顔になったパトリックは、試験会場で席を取られていた受験生その人だった。


「知ってるかい?あの時間に入ってくれた試験監督が私たちの上司なんだそうだ。」

「あ~、ワイルドな人でしたよね」


 二人はなんともいえないあいまいな笑みを浮かべた。


 休日にジョーの宿舎を訪ねると、大部屋に6人の部屋割りだった。


「ルカ!久しぶり!そっちはどう?落ち着いた?」

「おいおい、このかわいこちゃんは誰だよ。紹介してくれよ。」


 ジョーの後ろから同室のマッチョが覆いかぶさるようにして声をかける。


「こら、やめろよ。こいつは、俺の幼馴染で親友のルカ・マンチェスターだ。今年文官になったんだ。」

「えっ…」


 途端に同室の5人が固まってしまった。


「え? どうかしたのか?」

「あ、いや。だって。ルカって言ったら、満点で主席合格で、しかも首相と親しいんだろ?」

「いや待て。ルカって言ったら、復活された大魔術師グレース・アリア様の右腕って言われてる人物じゃなかったか?」


 一人、二人と、恐れおののくように顔を見合わせるのを、ジョーが慌てて止めた。


「なんだよ。ルカはルカだ。一緒に山登りして、野生のオオカミに襲われそうになって、半泣きになって一緒に逃げ帰った仲だ。」

「ぷっ、ふふふ。そうだったね。あの時は怖かったよね。」


 ルカが噴出して笑うと、周りもふと緊張が解けて笑い出した。


「そっか、もっとお高く留まってるのかと思っていたけど、そうじゃないんだな。」

「噂に振り回されるところだったぜ。こんなかわいい顔して、オオカミに襲われそうになったのか。怖かっただろう?あははは。」


 先ほどのマッチョが、ルカの頭をなでながら慰めた。


「笑い事じゃなかったんだよ。手元にあったチキンを投げつけて、転げながら逃げたんだ。死ぬかと思ったんだよ!」


 真剣な顔をして訴えるルカに、一層笑い声が大きくなった。その様子を見ながら、ジョーにもいい仲間が出来たんだなと、ルカはほっとしていた。


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