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ルカとジョーと秘密のスズラン  作者: しんた☆
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第3章 スカーレットの婚約 2

 砂埃でザラザラになった服を叩いて立ち上がると、今はジョーと模擬対戦中だったことを思い出し、ルカは構えなおした。

 ジョーも生活魔法だけではく、簡単な竜巻の風ぐらいなら出せるようになっている。心配そうに様子を伺っているジョーに、ニカッと笑って見せた。


「ちぇー、心配して損した。舐めてるんじゃないぞ。次も行くからな!」


 ジョーは再び構えなおした。


「デュ ヴァンフォ(強い風)!」

「ブキエィ(シールド)!」


 今度はあっさりとルカのシールドに遮られてしまった。アリアは納得したように頷くと、今日の鍛錬の終了を告げた。



 自宅に帰りついたルカは、門の前でスカーレットとフィリップが話をしているのに遭遇した。


「今日は、どうもありがとう。とても楽しかったわ。」

「僕もとても楽しかったよ。じゃあ、また。」


 恥じらいながら淑女の礼をして屋敷に帰っていくスカーレットを見送ると、不機嫌そうにフンっと鼻で笑って、フィリップが振り返った。

 とっさに業者用の入り口に隠れたルカには気が付かないまま、自宅の馬車に乗り込むと、フィリップはさっさと帰っていった。


「どういうことだ?」


 どう見ても、自分から進んで姉と婚姻を結びたいようには見えない。自宅に戻ると、鼻歌交じりのスカーレットが嬉しそうに今日の土産だと出かけた先の特産品だというバラジャムを取り出していた。


「ねえ、姉上。あの人のどこがいいの?」

「なぁに、ルカ。ヤキモチ?ふふ。彼はね、ああ見えて努力家なのよ。小さいころからバイオリンを習い続けて、今の実力を手にしたの。」

「姉上だって、努力してきたじゃない。」

「ええそうよ。だから、お互いの気持ちが分かるの。さぁ、楽しかった分、また練習しなくちゃ!」


翌日から、コールマン伯爵家の使者が、深紅のバラを持って毎朝やってくる。それを、スカーレットは嬉しそうに受け取っていた。花ぐらいでその気になるなんて。届けられたバラは美しい花瓶に飾られ日々増え続けている。その1本に手を伸ばしたルカは、チクっと指先に痛みを覚えた。美しいバラには棘がある。ルカは神妙な顔で考え込んだ。


 悔しいが、あんなに嬉しそうなスカーレットを見るのは初めてだ。だが、だからこそ、あんな鼻で笑ったような卑屈な男の元に嫁いでほしくない。ルカはモヤモヤした気持ちを抱えたまま、その日を過ごした。


 鍛錬場に行っても、どうにもスカーレットの縁談が気になるルカは、師匠に相談を持ち掛けた。


「実は、姉に縁談が来ていて、その相手の男がどうにも気に食わない奴で…」


 話を聞いていたアリアは、途中でぷっと噴出して、笑い出した。


「そうかそうか。お前は姉想いなのだな。しかし、嫁ぐのは本人だ。どんなに心配でも、本人が決断し、困難を乗り越えていくものだ。」

「しかし、あんな風に鼻で笑うような奴だって、姉上は知らないんだ。」


 ムキになるルカを、穏やかなまなざしで見つめる師匠は、静かに語った。


「では、おまえの姉上は、そんな相手の様子にまったく気づいていないと思うのか?コンクールで戦ってきた相手なんだろう?今までの人生が順風満帆だったと、だから呑気に浮かれているのだと思うのか?」


 その言葉に言い返すすべはなかった。


「嫁ぐとは、敵地に乗り込むがごとくだ。貴族同志となれば、なおさらな。相当の覚悟をしているものだ」


 虚を突かれたように黙り込むルカの頭をなでて、アリアはニヤニヤと笑っている。


「師匠、子ども扱いしないでください!」

「ふふ。さて、今日の鍛錬はここまでだ。魔術とは、その術の発動だけが全てではない。体力、知力、それに、人間性もおろそかには出来ん。励めよ。」



 次の日、学校に行くと、クラスメートのマーガレットに声を掛けられた。


「あの、マンチェスター君。あなたのお姉さまって、もしかしてスカーレット様?」

「え?そうだけど?」

「ええ~~~!なんて素敵なの!スカーレット様は私の憧れの人よ。じゃあ、あなたは貴族なのに平民の学校に来ているってことなの?」

「はぁ、僕は次男だから、爵位は継げない。まぁ、元々貴族には興味ないしな。」


 期待満面なマーガレットの視線が居心地悪くて、ルカは珍しくぶっきらぼうに答えた。


「ええ~、何々?ルカ君って、そんな男っぽいしゃべり方もするの?ねえ、マーガレット、何を話していたの?」

「マンチャスター君のお姉さんが、私の憧れの人だって話よ。知的な美人で、ピアノが最高にお上手なの」


 傍で聞いていたベネッサが割って入る。ベネッサは、勉強熱心でいつもルカと成績で張り合っているライバルだ。とルカは思っているが、当のベネッサは、ルカをアイドルのようにかわいがる。


「そうなのね。ルカ君はこんなにかわいいのに、お姉さまは知的なんだぁ。じゃあ、お家でもめちゃくちゃ可愛がられてるでしょ?」

「ベネッサ、バカにするなよ。兄弟仲はいいけど、小さい子みたいな可愛がり方はされていない。」

「ふふふ。ムキになって怒っててもかわいいー!」

「あーもう。ジョー、助けてよ!」


 少し離れた場所で見ていたジョーに助けを求めるが、ジョーは楽し気に笑っているだけだ。


「そうだわ。来週の日曜日、私の兄さんが小さなリサイタルを開くの。良かったら、お姉さまと一緒に来て。平民の集まる場だけど、兄のピアノの先生はサーガ教授なの。」

「え、じゃあ姉上と同じ先生なの?」

「そうよ。兄さんからスカーレット様の完璧ぶりを聞かされていて、私ずっと憧れていたの」

「じゃあ、姉上に聞いてみるよ」


 マーガレットは嬉しそうに席に戻っていった。


 家に帰ってスカーレットに聞いてみると、やはりマーガレットの兄を知っているという。そこで、一緒にリサイタルに出向くことになった。


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