52にちめ①
「いいかニナ、今日はお前に狩りを教えてやる」
「狩り?」
ニナを拾って早や50日余り。
俺が親としてニナに教えてやれることは何かと考え続けた結果、出た結論は狩りだった。
こいつが山で生きてくためには、狩りの技術は必要不可欠だからな。
「これからはお前も自分が食う分くらいは自分で狩れるようにならないとな。まずは俺が手本を見せるから、よく見とけ」
「う、うん」
俺は1匹だけで草を食っているホーンラビットの背後に気配を消して近付き、間合いに入った瞬間跳び掛かって首筋を掴んだ。
そして一瞬でシメる。
これで一丁上がり。
「どうだ、簡単だろ? ここのシメ方が甘いと肉がマズくなるから、そこだけ気を付けろよ。じゃあお前もやってみろ」
「う、うん!」
ニナは両手の拳を顔の前でギュッと握り、やる気を見せた。
よしよし、その意気だ。
「あそこにもう1匹ホーンラビットがいるから、あいつを捕まえてみろ」
「わ、わかった!」
ニナはホーンラビットの背後にそろりそろりと近付き、間合いを詰めた。
うんうん、いいぞいいぞ。
「たあー!」
「っ!?」
が、大声を出しながら跳び掛かったものだから、ホーンラビットはビビッて逃げてしまった。
嗚呼!
「バカ野郎! 自分から獲物に近付いていることを教えるやつがいるか!」
「ひぐぅ!? ゴ、ゴメンナサイ……」
「――!」
ニナは一瞬で涙目になった。
クソッ。
「まあいい。もう一度やってみろ」
「う、うん!」
――が、この後もニナはことごとく狩りに失敗。
太陽が西に傾く頃になっても、一度もホーンラビットに触れることすら叶わなかった。
「だああああ、もうッ!! 何度言えばわかるんだッ!? 跳び掛かる時は、ガッと行けって言ってるだろうが!!」
「そ、そんなこと言ったって……、私、狩りなんかしたことないし……」
またしても目をウルウルさせるニナ。
チッ!
「またそうやって泣けば許されると思ってんだろ!! そんなんじゃ山じゃ生きていけねーぞ! お前は野垂死んでもいいってのか!?」
「う、うるさいな! オーガおじちゃんのイジワルッ! もう知らないッ!」
「オ、オイ!? ニナ!?」
ニナはびえええええんと泣きながら、走り去ってしまった。
チッ、面倒クセーな。
まあ、腹が減ったら帰ってくんだろ。
俺は3匹ほど追加でホーンラビットを狩ってから、1人で家に帰った。
「遅ぇな」
が、太陽が地平線に沈みかけた頃になっても、ニナは帰って来なかった。
この50日余りでニナも大分この辺の地理は覚えたんで、迷子になってるなんてことはないとは思うが……。
「……まさか」
魔獣に襲われた……!?
この時間なら、まだそんなに危険な魔獣はうろついちゃいないはずだが……。
「……くっ!」
頭の中が不吉な想像でいっぱいになった俺は、居ても立っても居られなくなり、家を飛び出した。
「ニナ!! オォイ!! ニナ、どこだぁ!!」
ニナの名を叫びながら、山の中を走り回る。
皮肉なことに、こういう時のために名前は必要なんだとわからされた。
クソッ、もしもあいつを失ったら、俺は……。
「二ナァアア!!!」
すっかり陽が沈んで辺りを闇が包む頃になっても、ニナは見つからなかった。