1にちめ②
「ホラ、入れよ」
「う、うん」
ガキはキョロキョロと窺いながら、恐る恐る俺の家に入って来た。
この家はその昔金持ちの人間が別荘としてこの山に建てた物らしいが、持ち主が死んで以降は廃墟になってたんで、今は俺が家として使っている。
俺は暖炉に火を付け、ボロボロのソファーに腰を下ろす。
「適当に好きなとこに座れよ」
「あ、うん。……あっ」
ガキの腹がぐうぅと盛大に鳴った。
ガキは顔を真っ赤にしながら、腹を押さえて俯いた。
「ハッ、腹が減ったのか。奇遇だな、俺もだ。少し待ってろ」
「……!」
俺は外に寝かせてあるアブソリュートヘルフレイムドラゴンの、尻尾の先辺りの肉を手刀で2切れ作った。
この辺の肉がプリプリしてて美味ぇんだ。
肉に串を刺して、暖炉の火にかける。
程なくジュワジュワと肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。
「うわぁ……」
ガキはそんな肉の焼ける様を、涎を垂らしながらジッと見つめている。
「もう少しで焼けるからな」
「う、うん!」
ガキはキラキラと瞳を輝かせながら、肉汁が滴り落ちるのを何度も目で追っていた。
「ほらよ、食え」
「あ、ありが、と」
焼けた肉をガキに渡すと、さっきよりもデカい腹の虫が鳴いた。
「ハハッ、熱いから火傷すんなよ」
「うん。い、いただきます。あーん」
ガキが豪快に肉にかぶりつく。
すると――。
「っ! おいひぃっ!!」
大きく目を見開いて、満面の笑みになった。
フッ。
「そうか、ゆっくり食えよ」
「うん!」
頷きつつも、ガキのがっつきは止まらない。
余程腹が減ってたんだろうな。
どれ、俺も食うか。
「あーん」
肉を齧った瞬間、ジュワッと肉汁が口の中に広がった。
程よく弾力があり、噛めば噛むほどうま味が溢れ出てくる。
うん、やっぱアブソリュートヘルフレイムドラゴンの肉は美味ぇな。
「う……うぐ……ぐすっ」
「――!」
隣からガキのすすり泣きが聞こえてきた。
ふと横目で窺うと、ガキは肉を頬張りながら、大粒の涙を流していた。
「お父さん……お母さん……」
「……」
緊張の糸が切れたら、途端に両親が死んだ記憶が蘇ってきたのかもな。
物心付いた時から1人だった俺にはイマイチわからねーが、家族を失う悲しみってのは相当なものなんだろう。
掛けてやる言葉も浮かばなかったので、俺は無言で肉を齧り続けた。
「ぐー……ぐあー……」
「オ、オイ」
肉を食い終わったガキは、すぐさまその場でイビキをかき始めた。
さっきまであんなにメソメソしてたクセに、現金だなオイ!?
「……まったく」
仕方なく俺はガキをそっと抱き、ボロボロのベッドまで運びそこに寝かせた。
ガキはむにゃむにゃとだらしない顔をしてやがる。
やれやれ、俺はどこで寝るかな。
「――!」
俺がベッドから離れようとした途端、ガキが俺の腕を掴んできた。
コイツ、起きたのか!?
「置いていかないで……お父さん……お母さん……」
「……!」
寝言?
……うなされてんのか。
「チッ、しょうがねえなぁ」
放してくれそうになかったんで、仕方なく俺は狭いベッドにガキと2人で寝ることにした。
俺にベッタリ引っ付いているガキの身体は、ポカポカと温かかった。
ガキの体温は高いって聞いたことがあったが、本当だったんだな。
「……そういえば、こうして誰かと一緒に寝るのは、生まれて初めてだな」
思いの外悪くない心地にむず痒さを覚えつつも、そっと瞼を閉じた。