1にちめ①
「グガアアアアアアアア」
俺の放った右の手刀が、伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンの心臓に深く突き刺さった。
アブソリュートヘルフレイムドラゴンは断末魔の悲鳴を上げ、やがてピクリとも動かなくなった。
やれやれ、手こずらせやがって。
腐っても伝説の魔獣なだけありやがる。
だが、これで当分食う肉には困らねーな。
こいつの肉は美味ぇからな。
「よいしょ」
俺の背丈の倍はあるアブソリュートヘルフレイムドラゴンの死体を担いで歩き出す。
月夜に照らされた桜の花びらがハラハラと舞っている。
人間はこういう光景を見て、風情を感じたりするのかねえ?
俺にはよくわからねえが。
「うわあああああん!! お父さん、お母さあああああん!!」
「――!」
しばらく歩くと、子どもの泣き声が聞こえてきた。
こんな山奥に、子ども……?
「うるせぁな。ギャアギャア泣き喚くんじゃねーよ」
「まったく、父親はまだしも、母親は売れるんだから殺すなって言ったろーが」
「だってよぉ、抵抗してくるもんだから、ついよぉ」
声のしたほうに行くと、人間の女のガキを3人の人間の男が取り囲んでいた。
ガキは両親と思われる死体に縋り付いて、ワンワン泣いている。
男たちが持つ剣には真新しい血がべっとりと付いていた。
フン、山賊にでも襲われたか。
ツイてなかったな。
「まあいい、このガキだけでもそこそこの値にはなるだろう。見たとこ6歳くらいか? このくらいが好きな変態の客も多いからな。持ってくぞ」
「あいよぉ」
「イヤッ! 放して! 放してよぉ!」
……チッ。
「オイ」
俺はアブソリュートヘルフレイムドラゴンの死体を地面に置いて、山賊に声を掛ける。
「ん? ゲェ!? 何でこんなとこにオーガが!?」
「胸糞悪ぃモン見せんじゃねーよ。メシがマズくなるだろーが」
「ヒィッ!? に、逃げよーぜぇ! オーガには勝てねーよぉ!」
「うるせぇ! 所詮1匹だ! 3人いりゃあ負けねーよ! ――オラァ!!」
山賊の1人が威勢よく斬り掛ってきた。
遅ぇな。
「よっと」
「なぁッ!?」
俺は剣を左手だけで白刃取りした。
「あらよっ」
「ポゲパッ」
そして右の拳を顔面にブチ込んだ。
山賊の頭は熟れたスイカみたいに弾け飛んだ。
「ヒイイイィィ!?」
「テメェッ!! よくもッ!!」
2人目が大振りに斬り掛かってきた。
やれやれ、隙だらけだな。
「オラ」
「ガポパッ」
がら空きの胴に前蹴りを放った。
俺の蹴りは胴体を貫通し、山賊の腹には綺麗な穴が空いた。
「ヒエエエエエエ!!! ば、化け物だあああああああッ!!!」
残った最後の一人は、マヌケな面をしながら逃げ出した。
オイオイ、仲間を置いて逃げるなんて、随分薄情じゃねーか。
俺は地面に転がっていたリンゴくらいの大きさの岩を掴んだ。
「フン」
「ポギョッ」
その岩を山賊の背中目掛けて投げる。
岩はちょうど山賊の心臓辺りを貫通し、空いた穴越しに桜の花びらが舞っているのが見えた。
フム、確かにこれはこれで、風情があるかもしんねーな。
「あ……あ……あ……」
1人残ったガキは、ガチガチと奥歯を鳴らしながら、怯えた顔で俺を見上げる。
「心配すんな。別に取って食ったりはしねーよ」
人間の肉はマズいらしーからな。
「じゃあな、精々元気で暮らせや」
「――!」
ガキに背を向け歩き出す。
まあ、こんなところにガキが1人でいたら朝までには魔獣の餌になってるだろうが、そんなこたぁ俺の知ったこっちゃねえ。
所詮この世は弱肉強食。
運が悪かったと思って、諦めるんだな。
「う、うぐ……ふえええええん」
「……!」
背中越しにガキのすすり泣きが聞こえる。
……チッ、同情を引こうったって、そうはいかねーぞ。
「お父さぁぁん、お母さぁぁぁん」
「……」
……クソが。
「ふええええええええええん」
「……チッ」
あーもう、ウザってえな!
「オイ」
「ふえ?」
溜め息を吐きながら、ガキに声を掛ける。
「…………ウチに来るか?」
「――! うんッ!」
今さっきまでギャンギャン泣いてたクセに、一瞬で泣き止みやがった。
やれやれ、ガキってのはよくわかんねーな。