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(21) 小姓について



 アイヴィードには改めて従騎士着任の通達をすることになり、わたしはお兄さまと一緒に本丸にある騎士団本部へと戻った。


「あの、副団長」

「なんだ?」


 お兄さまと轡を並べて本部へ向かっている途中、わたしはお兄さまに尋ねた。


「小姓を付けるという話ですが……」

「ああ、そっちは俺とご領主で先に選んだ」

「そうだったのですね」


 正騎士の側仕えとしてつく役職は二つある。一つが従騎士でもう一つが小姓だ。

 二つの違いは前者の従騎士が騎士団の正規団員で騎士団が給与を支払うのに対し、小姓については各騎士が個人的に雇用するという点だ。

 なので小姓は騎士団の正規団員には数えられない。


 小姓の仕事は主である騎士の身の回りの世話である。戦場における寝床や食事の準備、部屋の掃除や洗濯と言った家事が中心だ。従騎士と違って戦場での活躍はそこまで期待されてはいないが、いざという時は主をかばって守るくらいの護身術は求められている。


 大昔はすべての騎士は先輩騎士の小姓になり、従騎士になってそれから一人前になったら正騎士へと昇格していたらしい。

 だけど今は魔導具の扱いや戦闘様式の変化で前衛と後衛の役割分担がはっきりしてきたことからこういった育成制度は廃れていったそうだ。

 騎士と従騎士は二人一組ないし三人一組でお互いを補い合って戦うが、小姓は戦闘にはさほど関わらない、直接戦う場合は本当にいざという時のみという役職だ。


「恐れながらサーシャ様、サーシャ様の小姓は私の妹です」

「そうなの!? ケインの妹というと、シーナよね?」


 だとしたら昔なじみだ。わたしが思わず勢いよく振り返ると、ケイン・シャレは驚きに目を見開いていた。


「よくご存じですね」

「あ、えーっと……」


 わたしは瞳を左右に泳がせる。

 シーナはわたしと同じ年で、幼少の頃はわたしの遊び相手として城に出入りしていた少女だ。

 サフォラ夫人の教育が始まったあたりから顔を合わせることがなくなった幼馴染みである。

 久々に会えるのかと思わず興奮してしまったが、冷静に考えてサーシャのわたしがシーナのことを知っているのはおかしい。


「副団長からあなたには妹がいる、とちらりと聞いたことがありまして……」

「そうだな。いつぞやちょっと話したか」


 お兄さまが肯定してうなずいてくれた。視線も何もわたしを見ていないのにビシビシと厳しい空気が肌を刺す。

 うう……ごめんなさい。うっかり。


「シーナは治癒兵として働いている。小姓にはぴったりだろう」

「なるほど」


 わたしは大きくうなずいた。

 治癒兵は文字通り治療を専門とした後方支援の兵士だ。

 魔法の中でも一定以上の治癒術を使える兵士が選抜され、鍛えられる。


 ちょっとした切傷程度を治療する魔法は使える人間が多いが、骨折など大きな怪我になってくると治せる人間はぐっと減ってくる。中等以上の治癒術は地に属する精霊の中でもそれなりの力を持つ精霊の加護を得たものしか扱えないのだ。

 精霊眼――青菫眼(アイオライト)は天に属する精霊なのでわたしもかすり傷程度ならなんとか出来るが、大きな治癒術は扱えない。

 逆に聖女・ミルフローラの孔雀眼(マラカイト)は地に属する<軍団長(アドミラル)>なので相当高度な治癒術が使えるそうだ。


 精霊眼は例外として、中等以上の治癒術を使える人材は貴重だ。

 そのためこの兵種に関してはとにかく男女関係なく一定以上の能力を持った人間を領地中からかき集めている。

 城で治癒兵として教育を施された人間は退職後は各地の治療所で仕事が出来るので生涯食うに困らないから多くの人間が喜んで治療兵に志願する。

 こういった制度から治癒兵は男女が半々と最も女性兵の割合が多い兵種だった。


 なので女性騎士の小姓が治癒兵から選ばれると言うことはよくあることであるらしい。

 治癒兵は領都や各地の砦に併設された治療院で患者である兵士の世話をあれこれする関係上、人の世話をすることにもある程度なれている。

 小姓に向いた兵種と言えた。


「ケインの妹なら、兄が従騎士で騎士団の仕事もわかるでしょうし、最適でしょうね」

「はい。小姓とはいえ女の身で騎士にお仕えできるのですから、シャレ家としても喜ばしいことです」


 そういってケインが朗らかに笑う。

 シャレの家は貴族ではないけど、何代か前に領主の従騎士を務めて功績を挙げた先祖が姓と領都に屋敷を賜っている。ケインも、その父親も祖父も領主一族やそれに近い血筋の人間の従騎士を勤め上げたいわば従騎士の家系だ。

 従騎士を選ぶのに家柄は本来関係ないのだけれど、親が従騎士だとその子どもは従騎士としてよく躾られている場合が多い。騎士からすれば命を預ける相手になるので、そういった心構えが出来ている人間を選びがちになってしまうのだ。

 すると自然とシャレ家のように何代か続く従騎士の家系が生まれてくることになる。


 家は代々従騎士で家族にも現役の、それもルシエル家の人間に仕える従騎士がいるという女性の治癒兵であれば、確かにわたしの小姓としては最適だ。

 ジルサンドラ個人の知り合いでもある。


 わたしはちらりとお兄さまを見た。

 お兄さまが微かにうなずく。

 なるほどね。


 小姓は身の回りの世話をする。

 つまりわたしの寝支度や朝起きて着替えるまでを手伝うと言うことだ。

 そうなると当然眼鏡を外したわたしの姿を見る可能性が非常に高い。

 小姓になるシーナにはわたしの正体を打ち明けるつもりなのだろう。


 でも、それなら従騎士を選ぶより先に会わせてくれてもいいと思うのだけれど。

 わたしの口からちょっとした不満が漏れる。


「シーナにはいつ会えますか? 決まっているならどうしてすぐ紹介していただけないのでしょう?」

「妹は今国境の砦に駐屯しているのです。他の交代要員と会わせてこちらに戻ってくる予定ですのでまだご紹介することが叶いません」

「そうだったのですね」


 ケインの回答にはわたしは納得する。

 適任の人材に目星を付けたところでその人物がここにいないのでは顔など会わせられるはずがない。


「シーナは五日後に帰還予定です」

「会うのが楽しみです」


 わたしは思わず満面の笑みを作った。

 いろいろと大変なことも多いけれど昔なじみと再会できるのは純粋にうれしかった。




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