表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

少女のサンタと黒いサンタクロース

作者: syanruru

雪降る聖なる日の子供たちが寝静まる夜、彼らは人知れずにプレゼントを配る。

残念ながら善意からではない。

それであればとても素敵なことではあるが、世の中そこまで甘くないのだ。

依頼人から大金をもらい、聖なる夜、その子供の枕元にプレゼントを置く。

それが赤い衣を纏う彼らの生業である。

『一年間良い子にしていた子供には、聖なる夜にサンタクロースがプレゼントをくれる』

そんな子供の夢を壊したくない大人の願いと、御時話の真実を見よう欲す、子供の好奇心のせめぎ合いから生まれた彼らは、聖なる夜に走り回る。

それはそれは人気のある仕事であり、数少ない魔法の使える者の中でも特に優秀でなければできない仕事だ。


「あぁ、寒いなぁ…。どうして、こんな寒い時期にメシアはお生まれになったのか。もっとこう、夏場でもよかったじゃないか」

寒さに愚痴を垂れ流す青年もまた、優秀な魔法使いである。

屋根から屋根へと飛び移り、依頼人の家を見つけてはプレゼントを配る、なんの変哲もないサンタクロースである。


最後の依頼人の家を見つけると、風を操りふわりと体を浮かせ、煙突を見つけて中に滑り込こむ。

子供の部屋を見つけると、そこには幼気な少女が眠っている。

「えっと、確かこの子のプレゼントは…」

大きく白い袋に手を入れると、その中から小箱を取り出す。

小箱の中身を確認すると、緑色の宝石があしらわれた指輪が入っている。

「間違えてないね」

明らかにこの少女の年齢に見合わない物だが、彼は気に留めることなく枕元にプレゼントを置く。

「メリークリスマス」

少女を起こさぬ様に小さく呟くと窓から素早く姿を消した。


「こんなところ、飛びたくないけど…。暖炉と布団が恋しいから仕方がないか」

そう呟き彼が飛ぶのは、お世辞にも雰囲気と治安が良いとは言えない場所である。

眼下の町の家は皆古く、壊さない様気を付けながら飛び移る。

そんな彼の視界の中に、ふと少女が飛び込んできた。

9に届くか届かないか、そんな年齢だろう。

家の外に放り出され、ボロボロの服と今にも擦り切れそうな毛布だけで横になっている。

その身は小さく震えていて、明らかに寒そうだ。

「何があったんだろう?」

この場所では珍しい話ではないが、裕福に育ち、裕福な暮らしをする彼はそんな事を全く知らなかった。


少女の目の前に飛び降りた彼は、怯えさせぬ様に静かに問う。

「こんばんは、お嬢さん。こんなところでどうしたの?」

「え、えっと、今から寝るんだよ」

少女は少し驚いた様子で起き上がり、それでもしっかりと彼の問いに対して答えた。

「外で寝るのかい?」

「そうだよ」

「えっと…」

まるで意味のわからない彼は、何を質問すれば良いのかさえもわからない。

目の前で固まる、明らかにこの辺りに住む人間では無い身なりの青年に、少女の方から質問をした。

「兄さんはどうしてここに来たの?」

「…お仕事の帰りだよ。僕はサンタクロースなんだ」

「サンタクロース?」

「聖なる夜に、一年間良い子にしていた子供にプレゼントを上げる人のことだよ。お嬢さんは良い子にしていたな?」

その質問に、少女は暗い顔をした後にそっと目を伏せた。

「…悪い子だった。いろんな人から、お金をいっぱい盗んだもん」

「…そっか。確かにそれは悪い子だ」

お金に困ったことのない彼は、どんな思いで少女が犯罪に走ったかはわからない。

それでも彼は目の前の哀れな悪い子供にプレゼントを渡したかった。

「じゃあ、逆に何か良いことはしなかったかい?」

「…えっと、怪我した鳥さんを治してあげたよ」

しばらく考えた後、少女はそう答えた。

「そうか。それじゃあ、ご褒美にこれをあげよう」

青年は背中に背負った空の袋の口を大きく開くと、魔法で空気を大量に送り込み、袋の口を上着で縛る。

青年は即席の枕を少女に渡して微笑んだ。

「メリークリスマス。来年は良い子にするんだよ」

「…ありがとう」

寒さに震える少女はお礼を言った後、袋を優しく撫でる。


それが誰に見られたのだろう、黒い服の男が少女を白い袋で叩いていたとの噂が広まった。


✴︎


「いくら収入がよくても、この寒さは耐え難いなぁ…」

翌年も青年は愚痴を溢していた。

去年よりも少し重い袋を背負い、今年も屋根から屋根へと飛び移る。


最後の依頼人の家を見つけると、風を操りふらふらと体を浮かせ、煙突を見つけて中を這う。

子供の部屋を見つけると、そこには幼気な少女が眠っている。

「えっと、確かこの子のプレゼントは…」

大きく白い袋に手を入れると、その中から小箱を取り出す。

小箱の中身を確認すると、赤の宝石があしらわれたイヤリングが入っている。

「…間違えてないね」

明らかにこの少女の年齢に見合わない物だが、彼は気に留めることなく枕元にプレゼントを置く。

「メリークリスマス」

少女を起こさぬ様に小さく呟くと窓から素早く姿を消した。


「今年も彼女はいるのかな」

そう呟き彼が飛ぶのは、お世辞にも雰囲気と治安が良いとは言えない場所である。

眼下の町の家は皆古く、屋根を飛ぶたび音がなる。

そんな彼の視界の中に、ふと少女が飛び込んできた。

10くらいだろうか、そんな年齢だろう。

家の外に放り出され、ボロボロの服と今にも擦り切れそうな毛布を羽織り、白い袋を枕に横になっている。

その身は小さく震えていて、明らかに寒そうだ。

「やっぱり居たか」

喜ぶ話べき話ではないが、裕福に育ち、裕福な暮らしをする彼は彼女の事情を全く想像できなかった。


少女の目の前に飛び降りた彼は、驚かさぬ様に静かに問う。

「こんばんは、お嬢さん。今年も会ったね」

「こんばんは、サンタクロースさん。去年は素敵なプレゼントありがとう」

「どういたしまして、今年は良い子にしていたかい?」

その質問に、少女は暗い顔をした後にそっと目を伏せた。

「…悪い子だった。服屋さんから服をいっぱい盗んだもん」

「…そっか。確かにそれは悪い子だ」

寒さに震えたことのない彼は、どんな思いで少女が犯罪に走ったかはわからない。

それでも彼は目の前の哀れな悪い子供にプレゼントを渡したかった。

「じゃあ、逆に何か良いことはしなかったかい?」

「…えっと、溺れた子猫を助けてあげたよ」

しばらく考えた後、少女はそう答えた。

「そうか。それじゃあ、ご褒美にこれをあげよう。よく燃える石だよ。暖かくして寝てね」

青年はそう言うと白い袋から石炭を取り出す。

少女のが受け取るとその手が真っ黒に汚れる。

目を丸くして少女が驚き口を開く。

「サンタクロースさん、お手が真っ黒になっちゃった…」

「アハハ…。失敗したな」

そう青年は呟くと、上着を脱いで石炭を包む。

「はい、これで手は汚れないね」

「…サンタクロースさん、ありがとう」


それが誰に見られたのだろう、黒い服の男が少女に石炭を投げつけたと噂になった。


✴︎


「太陽はもう少しだけ頑張るべきだと思うんだ」

翌年も青年は愚痴を溢していた。

赤い染みが出来た袋を背負い、今年も屋根から屋根へと飛び移る。


最後の依頼人の家を見つけると、風を操りふわりと体を浮かせ、煙突を見つけて中に滑り込こむ。

子供の部屋を見つけると、そこには幼気な少女が眠っている。

「えっと、確かこの子のプレゼントは…」

大きく白い袋に手を入れると、その中から小箱を取り出す。

小箱の中身を確認すると、光り輝く宝石あしらわれたネックレスが入っている。

「…」

明らかにこの少女の年齢に見合わない物だが、彼は枕元にプレゼントを置く。

「メリークリスマス」

少女を起こさぬ様に小さく呟くと窓から素早く姿を消した。


「今年も彼女いるんだろうな」

そう呟き彼が飛ぶのは、お世辞にも雰囲気と治安が良いとは言えない場所である。

眼下の町の家は皆古く、袋を気にしながら屋根を蹴る。

そんな彼の視界の中に、ふと少女が飛び込んできた。

11にしては幼く見える、そんな年齢だろう。

家の外に放り出され、ボロボロな服を着て、今にも擦り切れそうな毛布にくるまり、白い袋を抱きながら、暖をとっている。

その身は細く痩せ細り、明らかに食事を撮っていない。

「やっぱり居たか」

本来彼はとは無縁の話ではあるが、裕福に育ち、裕福な暮らしをしながら学んだ彼は、彼女ことを少し理解していた。


少女の目の前に飛び降りた彼は、混乱せぬ様に静かに問う。

「こんばんは、お嬢さん。今年も会ったね」

「こんばんは、サンタクロースさん。去年も素敵なプレゼントありがとう」

「どういたしまして、今年は良い子にしていたかい?」

その質問に、少女は暗い顔をした後にそっと目を伏せた。

「…悪い子だった。パン屋からパンを何回も盗んだから」

「…そっか。確かにそれは悪い子だ」

食べ物に困った事のない彼は、どんな思いで少女が犯罪に走ったかはわからない。

それでも彼は目の前の哀れな悪い子供にプレゼントを渡したかった。

「じゃあ、逆に何か良いことはしなかったかい?」

「…えっと、道案内をしたよ」

しばらく考えた後、少女はそう答えた。

「そうか。それじゃあ、ご褒美にこれをあげよう。お肉とお芋だよ。両方しっかり食べるんだよ」

青年はそう言うと白い袋から豚の臓物と馬鈴薯を取り出す。

少女のが受け取り臓物を持つと、その血で少女の手が染まる。

目を丸くして少女が驚き口を開く。

「サンタクロースさん、手が汚れちゃった」

「アハハ…。また失敗したな」

そう青年は呟くと、上着を脱いで少女に渡す。

「これで手を拭くといいよ。元々赤くて目立たないからね」

「…サンタクロースさん、ありがとう」


それが誰に見られたのだろう、黒い服の男が少女の前で臓物をばら撒いたと噂になった。


✴︎


「最後の年くらい、暖かくても良いじゃない?」

翌年も青年は愚痴を溢していた。

二つの袋を背負い、今年も屋根から屋根へと飛び移る。


最後の依頼人の家を見つけると、風を操りふわりと体を浮かせ、煙突を見つけて中に滑り込こむ。

子供の部屋を見つけると、そこには幼気な少女が眠っていた。

「えっと、確かこの子のプレゼントは…」

大きく白い袋に手を入れると、その中から小箱を取り出す。

小箱の中身を確認すると、虹色の宝石をあしらったブローチが入っていた。

「…」

明らかにこの少女の年齢に見合わない物で、彼は疑問を抱きながら、枕元にプレゼントを置く。

「…」

彼は無言のままに窓から素早く姿を消した。


「…今年も彼女はいるんだろうか」

そう呟き彼が飛ぶのは、お世辞にも雰囲気と治安が良いとは言えない場所である。

眼下の町の家は皆古いが、それを構わず屋根を蹴る。

そんな彼の視界の中に、ふと少女が飛び込んできた。

12、そんな年齢だろう。

家の外に放り出され、ボロボロな服を着て、今にも擦り切れそうな毛布にくるまり、白い袋を抱きながら、暖をとっている。

その身は女性らしく丸みを帯びているが、所々に痣が見える。

「…居たか」

この場所では珍しい話ではないが、裕福に育ち、裕福な暮らしをする彼は、この世の理不尽が許せなかった。


少女の目の前に飛び降りた彼は、警戒せぬ様に静かに問う。

「こんばんは、お嬢さん。今年も会ったね」

「こんばんは、サンタクロースさん。去年も素敵なプレゼントありがとう」

「どういたしまして、今年は良い子にしていたかい?」

その質問に、少女は暗い顔をした後にそっと目を伏せた。

「…悪い子だった」

その後に言葉が続かない。

いつもと違う少女の様子に、青年は違和感を覚え話を促す。

「どうして悪い子だったの?」

「…わからない、わからないよ。お金もパンも服も何も盗んでいないのに、叔父さんと叔母さんが悪い子だって…」

少女は痣のついた顔を手で隠す。

涙を見せないためであろうが、青年はそうは受け取らない。

愛情に困った事のない彼は、少女がどんな思い抱いているかはわからない。

それでも彼は目の前の哀れな悪い子供を救いたかった。

「お嬢さん欲しい物は無いかい?」

「…寒い」

「え?」

「寒いから温かいものをください。服でも、石でも、お湯だって良い。温かいものをください」

少女は泣きながらそう答えた。

少女の悲痛な叫びを聞いた後、青年は少女の頭に手を置くと魔法で静かに眠らせて、その後に袋に詰めてしまった。


それが誰に見られたのだろう、サンタが少女を連れ去ったと噂になった。


✴︎


雪降る聖なる日の子供たちが寝静まる夜、彼らは人知れずにプレゼントを配る。

残念ながら善意からではない。

それであればとても素敵なことではあるが、世の中そこまで甘くないのだ。

依頼人から大金をもらい、聖なる夜、その子供の枕元にプレゼントを置く。

それが赤い衣を纏う彼らの生業である。

『一年間良い子にしていた子供には、聖なる夜にサンタクロースがプレゼントをくれる』

そんな子供の夢を壊したくない大人の願いと、御時話の真実を見よう欲す、子供の好奇心のせめぎ合いから生まれた彼らは、聖なる夜に走り回る。

それはそれは人気のある仕事であり、数少ない魔法の使える者の中でも特に優秀でなければできない仕事だ。


「あぁ、寒い…。どうして、こんな寒い時期にメシアはお生まれになったのか。もっとこう、夏場でもよかったじゃない」

寒さに愚痴を垂れ流す少女もまた、優秀な魔法使いである。

屋根から屋根へと飛び移り、依頼人の家を見つけてはプレゼントを配る、なんの変哲もないサンタクロースである。


一つだけ他のサンタクロースと違うとすれば、それは後ろにいる男だろう。

彼は黒い衣服を身に纏い、白い袋を二つ担いで少女に付いて行く。


一人の少女を除いては、みんな彼を『ブラックサンタ』と呼ぶ。

そして、大人は子供に教える。

良い子に嬉しいプレゼントをあげるサンタクロースに対して、悪い子にお仕置きするのがブラックサンタで有る、と。

曰く、袋で叩いてお仕置きする。

曰く、石炭を投げつける。

曰く、馬鈴薯や内臓を部屋にばら撒く。

曰く、子供を袋につめて連れ去ってしまう。


そんな彼に、いつの聖夜か、温かい『家族』をもらった少女が笑顔で告げる。

「メリークリスマス。私のサンタさん」

評価、ブックマークをしてくださると泣いて喜びます。

えぇ、文字通り。


ついでに、筆者は現在、長編小説も書いてます。

そちらも覗いていただけると嬉しいです。

…雰囲気はかなり違いますが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ