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第二話

彼女の白い頬に付いた僅かな切り傷。それは僅かながら大きな影響を真由に与えていた。


影響、それは心の病。闇を抱えた真由はまた、人を傷付けてしまった。


些細な事。しかし、植え付けられたトラウマは拒絶反応を起こすかのように、記憶の中で暴れ回る。


高校生ながら、なんとか孤児院の承諾を得て借りたボロアパート。

その一室で、静かな風切り音が響いていた。


電球を灯していない暗い部屋は家具も最小限で質素な部屋だ。そんな中、タオルケットを頭から被り、部屋の壁に寄りかかる真由。


そのタオルケットの先はボロボロであり、切りくずは冷たい床に散らばる。また、タオルケットはところどころ裂け目があり、もう捨てる他無いだろう。


短くも長い数日、真由は学校に行く事は無かったがある事を決意した。『この力を......完全に制御してやる!!』と。


真由がこれまで、制御出来ていたと思っていた力だったが、まだ、まだ自分は甘いという事を知った。なのでこれまで以上に鍛える、と。


気持ちを整えた真由は今の時刻を確認した。


「ちょっと早いけど......」


時刻は早朝。いつもより、登校する時間帯より早いが真由は制服へと着替えて、高校へと行く事に決めた。


真由は戸締りを確認し、改めてボロアパートであることを振り向いて確認すると、ゆっくりと散歩するように道を歩き始める。

このボロアパートだが、高校への通学路はほぼ真っ直ぐ直線で近いという利点がある。


なのでぼーっと道を歩いている。


「(あー教会だ、そういえばあったな。)」


真由は目立つ十字架を目印にそう判断して、下に視線を下ろす。


すると、既知感のある顔が見えた。


「「あっ」」


思わず、両者共に間抜けな声が出てしまうほどの偶然。


その相手は————煌びやかなで美しい金髪に美しい蒼眼。それはまるで人形のような精巧な作り物。その白い頬には絆創膏が貼られてあり、大きく主張をしている。

服は清楚感のあるシスター服で白と黒で目立たぬ恰好だが、その胸元にある見覚えのある鈍器、ごつい金の十字架である。

そうシエナだ。彼女は教会の玄関の掃除をしており、片手には箒を持っていた。


やや腹部に、心当たりのある痛みを思い出した真由は咄嗟に腹部を押さえる。


「いや......あの」

「この悪魔っ!!」


狼狽える真由だったが、シエナのある動作を見て、すぐさま逃亡を決意する。


シエナは懐から何故か取り出した水晶を手に持ち、片手は玄関の盛り塩を鷲掴みにしていたからだ。

真由は咄嗟にあの物理的悪魔払いである、十字架の刺突が頭によぎった。

今度は塩と水晶。つまり、徹底的に眼球に塩を塗りこまれ、水晶で頭部をかち割られ撲殺。


それを瞬時に理解した真由は、気づいた時には十メートルほどの距離まで逃げていた。

後ろを振り向くと......


「滅・破・魔・除・輪・開・悪・散。滅・破・魔・除・輪・開・悪・散。滅・破————」

「(こっわ!?)」


謎の呪文を詠唱しながら、手に水晶と塩を鷲掴んで追い掛けてくる金髪蒼眼シスターであった。


高校まで直線。つまり、このまま行っても彼女を巻ける事無く高校へと、シエナと真由はゴールインしてしまう事となる。

高校でのかくれんぼは避けたいと思った真由はシエナから逃れる為に直角に曲がり、丁度あった公園へと逃げる。


「待って下さい!!」


シエナも真由を追い掛けて、直角に道路へと入っていく。しかしその時間さえあれば————


「あれ......?」


その場には誰もおらず、シーンとした冷たい早朝の綺麗な空気が漂う公園だけ。音があるとすれば、雀の鳴き声がチュンチュンと微かに聞こえる程度だ。


辺りを見回すシエナ。真由はもちろん、公園内にいた。それは茂みの中だ。

それはイタチの姿で、その小さな体を利用した反則に近い技だ。


「(バレるなバレるなバレるなバレるな————)」


そう祈り、目を瞑って縮こまる真由だったが、突然浮遊感を感じた。


グニりと首元の脂肪と皮を掴まれ、茂みの外へと出される。真由が反射的に目を開くとやはり、蒼い目。シエナだった。


真由は身震いし、力を出さぬように気を付けつつ、逃れる為に手足をバタバタと動かして、暴れるが逃れられない。


そんな真由というイタチが暴れる様子をじっと見つめるシエナ。


「(おそらくまだオーラは見えている。つまり、またもや悪魔扱いだ)」


目を瞑って、ぶらりと抵抗を止めた真由。しかし、シエナからは明らかな理不尽とも思える発言がなされた。


「......こんなに可愛いのに、悪魔みたいな力を持ってる訳ありません!というか、さっきの悪魔と少し違うような気がします!!これは天使の力です!!」


そういって、もう片方の手を胴体の下へと入れ、掴んだ首の皮を離して、首の下へと手を入れる。


「(はい?)」

「ふわふわです!」


訳の分からない様子の真由だったが思う存分に毛皮を堪能された。そして————


「どうやら男の子のようですね。」

「(え......)」


真由は上に持ち上げられ、妖怪だが人としての尊厳に大ダメージを与えられた。


「ドックフードでも大丈夫でしょうかね?」

「(待て、イタチでも妖怪だぞ!?)」


そしてシエナの懐から出された茶色い粒。つまり、ドックフード。

それを口元にグイグイと押し付けられ、真由はシエナとそのドックフードを交互に見て、食べたく無さげな表情を作るが、ここでポーカーフェイスが仕事をし過ぎ、全く持って伝わらない。


「(あ、うん。......可もなく不可もなく)」

「あ、食べたー!やっぱりドックフードでも大丈夫なんだ!」


そして、そのドックフードにより、完全に真由は、偽りの人間としての尊厳を失ったのだった。

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