第一話 プロローグ
人間は慈愛に充ちてなど無い。
人ならざる彼は受容無き妖たる存在であり、記憶に刻まれたモノは酷たるモノであった。
幼き朧げな記憶の断片に今無き肉親に告げられた事実。
世間から隠さねばならぬその身だ。
形貌は愛くるしいものの害獣と扱われる鼬であり、そのほっそりとした美しい体に、綺麗な皮は剥製として、現代社会にネットオークションで売買されてもおかしくない。
その容姿は本来の姿。しかし、鼬では人間社会たる現代に不適合であり妖たる彼には変化など容易い。
今の彼の容姿は艶のある黒髪に同年代より少し幼げな童顔であり、背丈は普通だが真っ白で綺麗でほっそりと手足。つまり————人間である。
今でも油断していると鼬になってしまうが、彼は完璧な人間に成れるのだ。
その技は肉親から教授されたが、その肉親の記憶は薄く、養子に渡った上、捨てられて児童養護施設へと入れられた。
彼が近寄ると、血無き無数の切り傷が現れ、苦痛だけを伝える。彼は呪い子と苛まれ、怪我と栄養失調によって手放され、児童養護施設へと入った。
しかし、児童養護施設でも環境は変わらない。
近づく全てを傷つけ、子供からも虐められた彼は徐々に人を拒絶するようになる。
ある時、怪我をした白猫が彼へと寄ってきた。彼は必死に治そうと看病する。されど彼は無意識に白猫を傷つけ、ようやくこの可笑しさに気付いた。
なんで人と違うか
なんで自分だけなのか
幼いながらも彼は涙をやめ、感情を捨てた。そして、次第にその力を制御をしていった。
しかし、児童養護施設ではもう既にその努力は無駄であり、中学生であった彼は遥か遠くの高校へと進学を決意する。
普通たる人生に
受容される人生になる事を祈って————
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近寄り難く、美形の童顔な少年、五瀬 真由。それがこの学校での彼の印象だ。
いつもクールな無表情で窓辺から空を眺める彼は何考えてるから分からないけど、カッコイイ。無口でお人形みたいで何やっても様になるとよく言われており、ファンクラブすらある。
しかし、彼の頭の中は————
「(高校デビュー失敗だ......僕と話す時だけよそよそしいし、嫌われているに違いない......)」
そう言って、真由は溜息をつくが、それすら艶かしくて良いと言うファンがいる事は勿論、知らない。
彼は教室のポツンと空いた空間に独り。
昼休憩、嫌われているはずのクラスメイトの目から逃れる為、仕方なく校舎に光を阻まれた日陰に沿って、校庭を探索していた。それは彼が一人になれる場所を探す為であり、未だに人が来ない場所を探していたからだ。
しかし、木々生い茂る庭に道として並べられた御影石の丸い敷石の上を歩いている真由の目に映ったのはこの学校で珍しい金髪蒼眼の少女の姿。
入学式に見かけた為、真由と同学年であるだろう彼女の名前はその容姿から良く知られる彼女の名前はシエナ=クラーク。
また、その優しい性格故に、一部から聖女ジャンヌダルクの化身では無いかと疑われているそうだ。
家の仕事で日本へと訪れたが、日本語はペラペラであるようだ
そんな彼女、シエナはじっと真由を覗くようにジッと見ている。
「(なにあれ.......全く話すらしてないのに嫌われているんだけど)」
そう真由が思いながらシエナに目を合わせると近寄ってきた。
「(うわ......なんかきた)」
真由の目にはパッチリと開いた、大きなアクアマリンのような瞳。造形されたかのような高い鼻や白く綺麗な肌、ぷっくりとした艶やかな唇。小顔で美しいその金髪、その容姿は正しくフランス人形のように見えた。フリルの多いドレスで着飾れば正しくそれだ。
「貴方......悪魔ですね?」
しかし、シエナからは仰天せざるおえない言葉が発せられる。彼女は真っ直ぐに、真由をその透き通るような蒼い瞳で真由の目の奥まで見通す。
誰もが真剣であり、嘘無き正直な瞳と思うような目。
それは彼女が本気でその言葉を、真由に言っていたという事だ。
「......違う」
悪魔ではなく、妖怪であるが。と頭によぎったが嘘は言ってないとそう真由は否定する。しかし、それはすぐに遮られた。
「じゃあっ!その力、なんなんですか!!」
シエナはそうすぐに追求される。しかし、真由は————
「(え、まだ僕のエネルギー的なにかダダ漏れなのか!?というか、この子は何かしら見えてる??)」
と持ち前のポーカーフェイスで感情は漏らす事は無かったが、内心では驚いていた。
その驚きにより、すぐに言葉が出せず......彼女は————
「無駄です!悪魔め!」
そう言って一歩下がったシエナは、制服のリボンに閉められた首元を緩め、ごつい金で出来た綺麗な装飾の十字架を取り出して、両手で持って突き付けてくる。
「イタッ!?」
そう、その十字架は真由の腹へと物理的な衝撃を与えてきたのだ。まさかの物理攻撃に驚愕しっぱなしの真由は油断していた。封じ込めたはずの空気の刃が反撃のように彼女の頬をなぞる。
「くッ!?悪魔め!本性を表しましたね!!」
「(これ以上、彼女を傷付けたら......)」
シエナのその傷を見た真由の腕は震えており、すぐさま行動へと移した。
「まさか校内にいるとは.......道具を持ってきます!そこで待っていてください!!」
そうシエナが言ったものの、そこには真由の姿は無かった。見えたのは後ろ姿。少女であるため、体格的にその速度に追いつく事は出来ない。
「待ってくださぁいーー!?」
その場に残るモノは、可憐な少女シエナの情けない声だけであった。
別作品も投稿しているので、そちらもよろしくお願い致しますm(*_ _)m
空中戦闘をテーマにしてますので珍しいと思いますよ。あと、ブクマすると嬉しいです!!