94話 告白
混乱する私の頭の中に、物悲しいギターの旋律が入ってきた。
溶生が軽くギターをひきはじめたようだ。
そのメロディは、昼間に聞いた、アニメ『シルク』の為の主題歌だった。
いきなり、不気味は話をした音無に驚いたが、溶生がギターを弾き始めたので、これも演出なのだと理解できた。
思い返せば、リハーサルで秋吉は、しっかり音無先生のサプライズを聞かされていた気がする。
この都市伝説は、出所も分かっていて、音読しても問題がないのは分かるのだが、それでも、100物語で披露するのは上品なやり方ではないと思う。
良い感じで止めさせるような台本になっていたのだろう。
などと考えて、あの、隠し戸にあったUSBに、この「トミノの地獄」について、雅苗が何かを記録していないかと気になった。
2019年、発表100年目を迎えたこの詩を使って……何かをしたのなら、下書きの類いを残しているかもしれない。
私は、USB内の『トミノの地獄』で検索してみた。
ヒットした。そして、出てきたデーターに驚愕する。
これは私的な文章で、特に、旦那に浮気をされ、精神が混乱した女性の、誰にも見せない心の内をさらしたものだ。
ここに、不気味で醜悪な事柄が書いてあるからとして、
それを責める事など、盗み見る私が、出来ようはずがない。
いや、その前に、こんな事が現実には不可能だ。
金や容貌で、愛しい人の心を掴めなくなった時、
そこから、どうやって立ち直り生きるのか?
雅苗は生物の根元に戻ることを選択した。
相手を惹き付けるための、テクニックを昆虫に求めたのだ。
彼女は、エサになる昆虫に子供を植え付け、
宿主の行動をもコントロールする寄生バチにそれを見いだしたのだ。
不気味な告白を読む私に、低く、優しい音無の声が語る、トミオの地獄が幻想的が耳をくすぐる。
7年前、同じ時、同じ場所で何がおこったのか?
それはここには書いていない。
ここに書いてある、妄想じみた計画は実行されなかったのだろう。
と、言うより、不可能だ。
口に出すのも恥ずかしい。
遺伝子の組み替えで、人を意のままに動かせる虫を作るなんて!
WEB小説だったら、少しは評価も貰えそうだが、現実には無理だ。
しかし、この計画を話していた人物がいるらしい。
私は、そこに書かれた名前に驚愕する。
長山 達雄
北城 和樹
き、北城?北城って…。
私は、高校時代の友人の名前が、こんなところに登場したのに驚いた。
驚きすぎて、あやうく長山の方を見落とすところだった。
私は、朝貰った名刺を確認する。
長山 達雄
同名だ。
私は、作り込まれた怪しい舞台に知らないうちに出演させられていたことを認識した。




