91話浮上
本を開いて、私は混乱していた。
探偵の案件なんだろうか?
シケイダ3301
ダン・ブラウン著作の『インフェルノ』
若葉溶生との結婚
AIロボ、草柳レイの育成。
雅苗がしている事は、一貫性がなく、フラフラと流行りものを追いかけているように思える。
虫探偵シンゲンの謎だとしたら、そんなに関わってはいられないな。
私は本棚のファイルに視線を向けた。
やることは、沢山ある。
それなりの成果はあげないと。
私はあせる気持ちで本を置き、雅苗の資料に目を通した。
が、作業をしながらも、あの、雅苗の謎が気になった。
確かに、流行りにのってるのかもしれないが、シケイダ3301やら、『インフェルノ』なんて、小学生の興味をそそるだろうか?
ふと、そこで自分の記憶の曖昧さが気になった。
あの映画、『インフェルノ』は、もっと最近ではなかったろうか?
検索した。
日本の公開は、2016年。12年に失踪した雅苗が話題には出来ない。
思い違いを疑った。が、念のために書籍を検索した。
映画『インフェルノ』の原作は、アメリカの小説家、ダン・ブラウン先生の作品をもとにしていて、
『ダ・ヴィンチコード』
『天使と悪魔』
『インフェルノ』
と、主人公ラングドンの3部作となっている。
ここで、書籍は2013年に出版されていたのが分かった。
微妙だな(-"-;)
2012年に失踪したのだから、2013年出版の『インフェルノ』は、関係ない気もする。が、父親がアメリカに在住歴があり、知り合いの多い彼女なら、出版前に、噂くらいは聞いた事があるかもしれない。
ここで、『インフェルノ』の結末が映画と原作で少し違うことが分かった。
どちらにも、人工の殺人ウイルスが登場するらしい。が、映画の方が爆破とか、派手なシーンが満載…らしい。
ここで、また、『ウイルス』のワードが飛び出し、嫌な気持ちにさせる。
雅苗さんは、生物学を学び、父親の雅徳さんは遺伝子を研究していた。
遺伝子組み替え…と、一言で言っても、70年代〜80年代は、DNAの情報を発見することに熱中した。
そして、90年代になると、知り得た情報を応用したくなる。
今までは、治療が不可能とされた遺伝子の異常でおこる病気の治療を、遺伝子を取り替えることで可能にようと考えたのだ。
伸びて使えなくなったカセットテープのデーターを切り張りして作り替えるように、
正常に動作しない遺伝子を切り取る『ウイルス』と正しい動作をする遺伝子を張り付ける『ウイルス』を使うことを考えたのだ。
この考え方は、基本的には当たっていたが、世紀末には死亡事故もおこった。
そこで、医者たちは慎重に考える事になるのだが、
2003年、中国が初めて遺伝子治療薬の承認をすると、研究が進み始める。
そして、この年を前後して、SARSウイルスのパンデミックが発生するのだ。
その翌年、2004年に、『トミノの地獄』の都市伝説が噂される。
80年近く過ぎた古い詩が、パンデミックと共に人々の意識によみがえってきたのだ。