88話雅苗の解答
『砂金』の表紙を見ながら、雅苗の気持ちを考えていた。
素数ゼミと、八十の詩。彼女は誰に何を謎かけしたのだろう?
ただのインテリア…なんてオチは無いだろうなぁ…
私は、一番恥ずかしい結末を思って暗くなる。
が、あの不気味な都市伝説の詩を読んでみたいとも思った。
本の中身は古く、紙は黄ばんできた。
調べると、簡単に『トミノの地獄』は見つかった。
それは、少年?トミノが地獄巡りをする内容である。
どうして、シケイダのイラストをコラボしたんだろう?
純粋に疑問が沸き上がった。
シケイダ3301と言う団体の正体は、未だに謎らしい。が、彼らが2012年に『トミノの地獄』をベースに謎を発信したとは思えない。
翅を広げるセミを見つめていると、混乱した気持ちになる。
蝶と蛾の大雑把な見分けかたとして、翅がある。
蝶は止まるときに翅を閉じるが、蛾は翅の構造上、翅を閉じることは出来ないのだ。
蝉も脇の辺りから翅が生えているので、通常、蝶のように翅を広げてはいないし、標本を作る場合も、基本は閉じたまま作られる。
シケイダ3301の人達が、何を思って、あのデザインにしたのかは分からない。
が、多分、ここでは必要無い気がしてきた。
シケイダ3301は、インターネット関連の団体らしい。
私には、複雑なプログラムは分からないし、向こうも、自分達のデザインした蝉のイラストに、昆虫の豆知識で文句を言われるなんて、考えてもなかっただろうから。
それは、生物学者である雅苗も同じだと思う。
虫探偵の謎も含めて、この謎は、虫関連のものに違いないからだ。
私が、見つけなければいけないのは、
シケイダ3301の謎ではなく
若葉 雅苗の謎なのだ。
だとすれば、このイラストには違和感を感じたはずだ。
3301と言う素数とセミのイラストから、この蝉が素数セミだとするなら、彼らは、基本、それほど飛び回ったりはしないからだ。
種を守るため、雑種をさける生存戦略に特化した彼らは、同じ場所で大量発生し、ほぼ同じ場所で相手を探して繁殖する。
そんな蝉が飛ぶ…移動する意味は、なんだろう?
温暖化…
一瞬、そんな言葉が思い浮かんだ。
そう、近年の気温の上昇は、地球規模の生態系の変化をもたらした。
あの頃、私は、ネッタイシマカから感染するデング熱についての研修を受けていた。
本来は、冬には死滅するはずの熱帯の昆虫が越冬して繁殖するのだ。
温暖化は蝉にも変化を与えた。
日本では、西日本を生息域にしていたクマゼミが、関東方面まで北上を始めたのだった。
クマゼミの北上は、アブラゼミの個体を減らす結果になった。
では…周期ゼミはどうだろう?
彼らは、長い間、土の中で暮らし、その場所で成虫になり繁殖をする。
一説には、氷河期を乗り切る生存戦略とも言われているが、気温の上昇は、彼らの生態にどう影響するのだろうか?
ふと、西条八十の『トミノの地獄』が不気味に思い浮かんだ。