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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
92/202

85話学者の恋

私とは違い、秋吉は『釣られる』事なく音無の台詞を軽くながし、

『シルク』の恋愛シーンを魅力的に説明し、番宣に繋げて行く。


「それで、音無先生は、今宵はどんなお話をしてくださるのですか?

今日は霊を呼び出す『怖い話』ですよ。『恋ばな』じゃありませんからね。」

少し、芝居がかった声の秋吉が音無の話を誘う。


私は、秋吉の声を聞きながら、彼と働いた日々を思い出す。


秋吉は言った。

これがメジャーになる最後のチャンスだと。


彼と働いたり、夢を聞いて過ごした日々が、モニターごしの秋吉のおどけた表情にまとわりついて、なんだか、身内のように身がつまされる。


苦労と努力を惜しまなかった彼が、成功して欲しいと心から思う。


私が彼にしてあげられる事。


それはモニターごしに応援する事ではなく、

あの若宮夫人の失踪の解明だ。


新しい手がかりを見つければ、『シルク』の話題作りになるかもしれない。


ばずる?えんじょう?


とにかく、一発ドカーンと、宣伝の花火を打ち上げてあげられるのだ。


ファイルを開き、部屋に残る形跡を探す。


普通の視点…

警察や

身内や友人、

雑誌やインターネットの世論は出尽くしたに違いない。


私が、この短い時間で探すとしたら

他の人達が持てない視点、生物学者としての…



「ふふっ。恋する気持ちを忘れてしまったら、小説なんて書けないのではないかな?

特に、ホラー小説は、爆発的な感情を何かに向けるところから始まる。

憎しみも、執着も…裏を返せば、何かに向けられた情愛の形なのだから。


愛しいと思う(ひと)の、心の中に残りたい、共に時を刻みたい…その気持ちは、恋情を抱くものには甘美な夢であり、

その愛を向けられた人物が、愛情を感じなければ、寄生虫に巣食われる様な不快感だけが残るのだろう。

お互いが、それを望めば恋愛小説と、読者は認識し、どちらかが拒否反応をおこした時点で、その物語はホラーと呼ばれることになる。


秋吉くん。君はまだ分かってないようだ。

出版社や読者の一部は『シルク』をホラージャンルと言うけれど、これは純愛の物語なのだよ。

普通の人の視点を追いかけていたら、人を惹き付ける作品にはならないよ。

君は修二郎(しゅうじろう)として、恋する男を演じてくれないと…。

私が、そう心がけたように。」

音無の話し声が、粘りつくビオラの曲のように、耳に入り込む。


恋? 端からは分からなくても、本人には狂おしい恋情…。


私の心にこの言葉が引っ掛かる。


漠然とした気持ちに押されて、私は7年前の若葉溶生の記事を調べる。


ネットに残る情報によると、雅苗(かなえ)夫人との結婚生活は、半年くらいで冷えた関係になったらしい。

溶生(ときお)は、飲み歩き浮気をしたと、当時、週刊誌が記事にしていた。


結婚生活の破綻の原因は、格差婚。


当時、落ち目になりかけていた溶生(ときお)と、国立大の助教授の資産家の娘。

財産目当てと騒がれて、プライドの高い溶生の気持ちが冷めていったとか、真しやかに書いてある。


これを全て信じる気持ちにはならないが、

確かに、「ひも」の様な意味合いで、溶生が「パラサイト」と、陰口を叩かれていたのは記憶している。

そんな事を世間の人達に言われたら、私だってうれしくはない。

やはり、(ひがみ)みっぽくなったり、

妻をさけたりするかもしれない。


では、避けられた妻の側はどうするだろう?


はたから見れば、ホラーでも、本人には純愛。


音無の台詞がうすら寒く部屋の空気を重くした。


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