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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
91/202

84話恋愛小説家

「ええっと…、ここでスペシャル、げ、ゲストですか?

え?本当に?音無先生が来るんですか!?」


混乱する頭の中に、困惑したような秋吉の声が飛び込んできた。


「えっ、ああ…、音声だけで?

これ、スピーカーなんですか…。

あ、すいません。

俺も、この段取り聞いてなくて…。


では、気を取り直して、来期、俺が主役のアニメ『シルク』の作者、音無 不比等先生が、緊急参戦してくださるそうです。

先生は、主にWeb小説で活躍中ですが、先生のホラーは、ネットでも都市伝説化するほどなんですよ。」

秋吉の声がひきつって聞こえた。

秋吉は、『シルク』の声優のオーディションで、作者である音無に、随分と酷いイタズラをされたようで、いまだに苦手意識が消えないようだ。


私は、そんな秋吉の事が気にかかってモニターに近づいた。


悪質な悪戯(いたずら)が好きな、音無先生の声を御拝聴(ごはいちょう)したいと言う、少し、野次馬(やじうま)的な好奇心も手伝って、私は、モニターに集中する。


「久しぶりだね、秋吉くん。元気にしていたかな?

まずは、自己紹介をしなくてはね。」

音無の声は、鐘の音のように後頭部に響く。

気になって、作業の手が止まる。

音無は、更に続けた。

「私は、恋愛小説を中心に書いているインターネットの兼業作家、音無(おとなし) 不比等(ふひと)

秋吉くんが言うほど、恐怖表現は得意な方ではありません。どうぞ、宜しく。」


誰に言い訳をしてるのだろう?


私は、音無と言う作家が、誰か、個人に向けて話しているように聞こえて困惑した。


「それは…スイマセン。」

秋吉の謝罪を聞きながら、私は苦笑した。


恋愛小説…


音無不比等と言うWeb作家先生の肩書きには合わない気がした。


秋吉の出演作と言う事で購入した書籍を拝読する限り、小説『シルク』を恋愛小説と言い切る神経に少し驚いた。


『シルク』は、植物人間となった妻に学者の主人公修二郎の一方的な愛情が、いびつに注がれている。


それは確かに魅力ある設定ではあるが、普通の感覚の人間には、それを恋愛とは認識できないエピソードで綴られている。


主人公の男は、自分の身勝手のために、まだ息のある妻に、新種の虫の卵を埋め込むのだ。


そうすることで、この虫が、内部から宿主の生態を守ろうとするのだ。


愛しい妻の姿だけでも、虫が成虫になるまでは、みつめていられる、

しかし、主人公は世話をして行くうちに、自分が愛している相手がわからなくなるのだ。

それは妻なのか、寄生虫(むし)なのか…そうして、淡々と彼女の変化を観察する。

学者の目線で事細かく。

こんな傲慢(ごうまん)があるだろうか?


しかし、怒りながらも読まされる、なにか惹き付ける物語ではあるのだが、

これを恋愛小説と言い切るとは!


私は、見たことのない音無と言う人物に軽い嫌悪感を覚えたが、


次の瞬間、秋吉の言葉を思い出す。


インターネットで人気者になるには、わざと相手の感情を逆撫でする行為

「釣る」と言う事をするのだそうだ。


ここで、感情的になるのは、新人の青二才だと馬鹿にされるだけなのだそうだ。

英国紳士のような冷静で理論的な返しを求められる。

秋吉のネットの説明を思い出す。


もう少しで、私も「釣られる」ところだったのか。

私は苦笑して冷めたコーヒーを口にした。


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