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パラサイト  作者: ふりまじん
秘密
89/202

82話百物語

夜が来て、収録は始まった。

収録と言っても、テレビドラマに出てくるような、沢山のスタッフはいない。

カメラも大きいものではない。インターネット配信の番組とは、そんなものなのだろうか?

その質問に長山は、「池上さんは古いですよ。」と、カメラごしに曖昧に笑った。

多分、質問したら長い説明になりそうなので、私はその言葉を素直に受け入れて深く考えるのは止めた。

それでなくとも、考えることは山ほどある。

動画の監視、資料の整理、雅苗の謎…


番組については、北城が長山の手伝いをしているはずだ。


私は、二階雅苗の部屋で、まずは出来る作業を始めるのみだ。


彼女の研究資料をまとめて整理をする。

それは、彼女の研究がこれから先、どこかで行き続ける願いを込められている。


ついでに、温室のショクダイオオコンニャクの開花の状況のチェックも頼まれた。


正直、私が、監視しなくても良い気もするのだが、人気の無い温室の定点カメラの画像は不気味で、今にも何者かが現れるのではないか、などと妄想させた。

気を許すと、蕾の後ろ側の温室のガラスに、何かが飛び出してきそうで、恐怖で逆にみてしまうが、自分のスキルが活用できる事務仕事で気持ちをまぎらわす。

ついでに、クーラーのきいた部屋で、コーヒーは飲み放題だし、作業に集中さえ出来れば、とても良い仕事と言えた。


雅苗の研究にも興味はあった。


7年前の今日、一体、何があったのだろう?


ショクダイオオコンニャクの開花、

モルゲロン病

シケイダ3301の謎

夫である溶生さんの人形遊び。


目まぐるしいラインナップにくらくらするが、2012年と言う年のもつ、言い知れない闇に捕まってしまったのかと、そんな風にも考える。



長山は、スカラベのミイラを探せと言ったけれど、北城がどこかの研究所に寄贈したらしいから、それは、探さなくても良くなった。


落ち着いて考えてみれば、そんなもの、探偵でもない私が、探せるわけもない。

しかし、長山からすれば、意識を取り戻した溶生さんが、失踪宣告をし、財産を整理する事を考えて、思い出の品物の行方を知りたいと切望するのは、心情的に理解できる。


私も、現在、人生の師、故 勝山さんの家に住んで資料を整理していて思うのだが、研究に興味の無い親族からすると、積み上げた観察日記やレポート、虫の標本等は、夏休みの子供の自由研究なみの認識しか持ってないのだ。


北宮の名前があったとしても、信州の個人の屋敷に転がっていては、例え、ファラオの大切な護符だったとしても、ただの汚い虫の死骸にしか見えないのだ。

私は、本棚に並ぶ青いファイルを何冊か取り出した。

彼女は大学と農業関係者の間で、遺伝子組み換えや、益虫について研究していた。


勿論、大学の仕事の情報は家には持ってこないだろうし、あったとしても大切な資料は、7年前に関係者が回収したに違いない。


ここにあるのは、私的な研究についてのファイル。

雅苗の名前で検索しても、取り立てて物凄いエピソードが飛びだしたりはしなかった。


ただ、父親も雅徳さんは、英語でいくつかのレポートをネットで見つけることができた。

尊徳先生ほどではないが、アメリカでは、それなりに名前が通っていたようだ。

雅苗は、子供の頃から生物学に興味があり、父親の研究にも興味を持っていたらしいが、それについての資料らしいものは、ここには無かった。

まあ、外国で研究していたのであれば、色々と、検閲があるのは当たり前なので、無くてもそれほど気にはならなかった。


あの温室のショクダイオオコンニャクを除いては。


私は、モニターで温室の蕾をちらりと見た。

それは、王室の門兵のように微動だにせず直立している。

隣のパソコンのモニターの秋吉達は撮影を開始したようだった。


彼らは百物語をするらしかった。

百物語は、夏の夜100本の蝋燭(ろうそく)を灯し、人が集まって怖い話をし、1話終わ度にろうそくを1つ消してゆく怪談で、100話終わると辺りは闇に染まり、その時、霊が現れる…

よくある、夏のイベントだが、本当に幽霊が現れたりはしない。


少なくとも、私はそう信じている。


が、逆を信じる人間もいる。


今回は、若葉溶生がそれに当たる。

彼は、百語りの降霊術をしたいと提案したらしい。

失踪した奥さんが、夢枕でそう言ったのだそうだ。


が、ここまで言われると、嘘臭さを通り越して作為を感じる。


失踪宣告の為の何かの伏線のような。


溶生を疑り、次の瞬間には、間近で見た彼を思って自分に反論をする。


彼が奥さんに危害を加えるなんてあり得ない。


そして、昼間の白昼夢の固まった溶生さん。

あれは、本当に、夢だったのだろうか?



混乱する私の気持ちを知らないで番組の収録が始まった。

私は、モニターで音声つきでそれを見学させてもらう。

秋吉は、安物のパンツとシャツで、一緒に段ボールを運んでいた男とは思えない、優雅で自信たっぷりの笑顔で、番組の進行をはじめた。


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