78話倉庫
階段の奥の引き戸を引くと、そこから、半畳の板間の踊り場があった。
スイッチを押すと、大正風の白いガラスのシェイドに覆われた電球が光る。
少し勾配のある木の階段が、秘密の香りを漂わせていた。
男二人の窮屈さから解放されるように、私が先に階段を降り始めた。
尊徳先生も…少年時代は、秘密基地に向かうようなドキドキを、この廊下に感じたりしたのだろうか?
北宮家独特の家の臭いがする。
曲がり角を1つまがり、階段を降りた先に、西洋風のクラシカルなドアがあり、私は、しびれる感覚と共にノブに手をかけた。
開かない( ̄▽ ̄;)
「鍵がかかってるんだよ。」
北城が、私の背後から、旧式の鍵を差し込んだ。
少し手間がかかり、北城は、「私より先に行くからだ。」と、狭苦しい理由をと胸板を押し付けながらドアを開ける。
ちえっ。
と、思ったのもつかの間、開いたドアの向こうに、木箱の虫の標本らしきものが積まれているを見つけて部屋へと入る。
あああっ………。
尊徳先生のプライベートを盗み見るような背徳感と、宝探しの予感に気持ちが高揚する。
そして、この喜びを共感できる友が居ることを嬉しく感じた。
「凄いなぁ…。どこから手をつけようか、なぁ。」
夢見るように振り返り、そこで、奴の呼び名に迷う。
管理人の北川?
それとも北城なのか。
「その前に、少し、いいか?」
北城が真顔で聞いてくる。
「ああ。」
私も真顔で北城を見返した。
「まず、私は、北宮家の親族だ。」
「ああ。」
それは、納得だ。
「そして、溶生さんの相談役でもある。」
「?ああ…」
「アメリカで、カウンセリングを学んだ。日本で通用はしないが、親族の相談役として選ばれた。」
「カウンセリング…。」
北城は、法医昆虫学を学びに言ったはずだが、進路を変えたのだろうか?
「それで、彼にバレないように変装をしていた。」
(゜д゜)えっ…
「いや、それはおかしいぞ。」
私は、あのつけ髭で親族を騙せると考えた、なんて、ふざけた理由は、どうしても理解できなかった。