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パラサイト  作者: ふりまじん
特別な仕事
7/202

6 話 ゲスト*

「そういえば、若葉さんとはどこで待ち合わせなんですか?」

穏やかに流れる雰囲気を破って、秋吉が長山に声をかけた。


わ、ワカバ…って、やはり。

私は、私は赤面してくるのが分かる。


若葉(わかば) 溶生(ときお)


私の学生時代に活躍したアーティストで、旧姓北宮 雅苗の夫である。

7年前、北宮 雅苗(かなえ)は失踪した。

自身が相続した別荘から。


朝の悪夢の余韻が胸によぎる。土から覗いた銀の指輪…

行きながら埋められた、女性の指。


まさか、な。

一瞬、7年前の噂を思い出す。溶生が雅苗を殺したと言う。

勿論、警察はそんな事実も、雅苗の行方も見つけてはいない。


私は自分がぼんやりとしている事に気がついて急いで秋吉達の会話に気を向けた。

そう私は、これから仕事に行くのだ。しかもご指名、失敗は許されない。

仕事に関係することは、なんでも頭に入れていた方がいい。


「 自宅に迎えに行きますが、準備がまだな様なのでもう少しここにいましょう。

若葉さんも久しぶりの撮影なんで緊張してるとかメールしてきましたね。

ああ、池上さん? 池上さんは知ってます?若葉(わかば) 溶生(ときお)。」

長山は私を見た。


私はドキッとして、一瞬、不安になった。

若葉時生は、世間では疑惑の人でも、私には青春のスーパースターなのだ。

ブラウン管の前で見ていたときは、 溶生さんは、人気がイマイチだとか、

マイナーな部類だとか、失礼千万な事を平気で口にしていたが、

それはテレビの向こうの別世界だからで、

その別世界の人物が三次元(リアル)で登場するとなれば話は違うっ。


天使が降臨する。くらいの衝撃的な話なのだ。


混乱し無言の私に長山は勘違いの失望を顔に浮かべて苦笑いで取り繕った。


「すいません。知りませんよね?

池上さんはテクノポップなんて聴きそうもないですからね。」

「い、いえ、すいません。知ってます。溶生さん!

と、言うか、ファンでしたから。

しかし、テクノポップ…でしたっけ?

彼は、ニューミュージックの人間ですよね?」

私は久しぶりのトキオ談に不覚にもトキメキを感じてしまう。

本人降臨を前にネガティブな情報は私の頭から焼き払われた。


秋吉がニヤニヤしているがトキオ談が出来るのだ!そんなものは無視だ。


「ああ、若葉さんアコースティックから始めてましたね。

人気が落ち着いてから90年代にゲーム音楽で活躍してましたよ。」

長山は淡々と説明してくれた。


「そうなんですか…。」

私は90年代の自分を思い出す。

当時はとにかく忙しくて海外出張なもあり、『24時間働けますか?』

なんて流行り言葉を良く口にした。


だから、私は学生時代のポップスターの事なんて忘れていたのだ。


「そうですね、今は若葉と言えばゲーム音楽ですかね?」

長山は秋吉を見た。

「ああ、でも、アコースティックな若葉さんの曲、嫌いじゃないんですよ。」

秋吉が私に笑いかけて、その時、私は休み時間にひょんな事から

秋吉と若葉溶生の曲を聴いたことを思い出した。


「『輪廻円舞曲(ロンド)』かな?」

私は、その時、二人で聞いた曲を取り上げた。


無名だった秋吉は、私と同じ現場で働いていた。

その時の事を覚えていてくれたのだろう。

「そうです。」

秋吉は整った顔に心からの笑顔の光を乗せて私を見た。


秋吉には急な勤務時間の交代とか面倒を押し付けられたが、

タレントとして売れ始めても、変わらずにいてくれて嬉しかった。

「ありがとう。」

私は、彼の眩しい笑顔に少し照れながらうつ向いた。

「どうしたんですか?ありがとうなんて」

秋吉が不思議そうに私を見る。私はそれに答えずに苦笑した。


「あっ、そろそろ行きましょうか。

屋敷の方の準備もできたようですし、

若葉さんとも連絡がつきましたから。

若葉さんを拾って、現場に向かいましょう。」

私たちの噛み合わない会話を軽く流して長山が立ち上がる。

私達は仕事を思い出し気を引き締め直した。


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