63話 夕飯
秋吉は、ひょっこりと現れて、夕飯を一緒に食べようと用意をはじめた。
と、言っても、おにぎりとパンにサラダをはさんだ簡素なものだった。
私は、自由に飲んでも良いと言われているインスタントコーヒーを二人分作ってテーブルに置いた。
「こんなところに来て良いのか?」
私はソファーに座りながら、本番間近であろう秋吉を心配する。
「大丈夫です。と、言うか、息抜きに来たんですよ〜。なんか、あっちは気疲れしちゃって。」
秋吉は少し甘えたような顔でリラックスしたように笑う。
「そうか。」
私は、そんな秋吉にホットしながら、おにぎりを頬張った。
中身はシャケだった。
身が大きくて新鮮なのがわかる。多分、自家製だと思った。
「これ…北川さんが作ったのかな?」
私は、突然現れて消えた北川の事を思い出した。
そして、あの謎の泉を。
「さあ…、俺は長山さんから受け取っただけだし…
やっぱり、人が握ったおにぎりは気になりますか?」
秋吉は心配そうに私を見る。
「いや、そう言うのは平気だよ。私は、北川さんの事が気になってね。」
と、言いながら、温室での話をするべきなのか迷った。
もうすぐ、本番なのだ、要らない心配はかけたくはない。
「そうですね、へんなつけ髭をして、怪しげでしたよね。」
秋吉はそう言って笑う。
「え?あれ、やっぱり、つけ髭なのか?!」
私は、思わず叫ぶ。
「多分、ビンゴです。あれだけワザとらしいと、何かのイベントを疑いたくなりますよね。」
秋吉はそう言ってため息をつく。
「イベント?」
「もしくは、サプライズ?俺、あの人が音無先生では無いかと、考えていたんですけど。」
秋吉は少し神経質そうに眉を寄せた。
音無おとなし不比等ふひと。
小説『シルク』を書いた謎多き作者である。