60話 分岐
モロゲロン病が注目される中、現在の医学では原因不明の病気についても注目を浴びるようになっていたらしい。
インターネットの普及もあり、雅苗もそんな病気についての講演会などに出席をするなどの活動をしていたようだった。
その活動の中で、謎の皮膚病に悩む溶生との再会をはたすのだ。
ここまで、雅苗の日記を読んでいて、その内容に心が乱れた。
若葉 溶生が、本当に皮膚病に悩まされていた事も、雅苗がただの溶生ファンでも無かった事も、全てが初めて知ることで、私の心を掻き乱した。
しかし、モロゲロン病なんてものは存在していない事は、後に証明されている。
それでも…若葉 溶生を悩ませていた何かが存在していた事は、確かであり、それは、週刊紙で噂されているような薬物ではない事が嬉しかった。
80年代の南国の光を受けながら、白い麻のジャケットを羽織り歌う溶生の笑顔が思い浮かんだ。
はじめは、爽やか系の曲だったんだよなぁ。
私は、若葉を愛した少年時代を思い出す。
ヤシの木や青い海に憧れた昔の自分。
いつか、世界中を旅して、様々な虫を観察したり、捕獲したりをしたかった。
が、現実はそう簡単でもなく、海外に渡航経験はあるにしても、都会ばかりでなかなか、密林や山に行く機会は巡ってこなかった。
人生は、そんなものかもしれない。
だとしたら…溶生はどうなのだろう?
90年代に入って、一気に作品を陰鬱に変えてしまった彼には、何が起こったのだろう?
私は、今日、初めて見た溶生の顔を思い浮かべた。
少し、やつれたような、それでいて、すべてを包み込むような、そんな笑顔だった。
私は、再び日記に目を向ける。
雅苗さんは溶生さんを心配していた。
読み進める文章には、その気持ちが溢れている気がした。
そして、彼を蝕む病気についての果てない探求心。
それは、溶生さんもおなじだったに違いない。
そんな溶生さんが、浮気など、本気でするだろうか?
しかし、雅苗の日記はここから、少しずつ変化を見せてくる。
それは、2005年から関心を持たれ、数々の報告から、モロゲロン病が否定されて行くのと重なって黒く、ネガティブに染まって行くのだ。