53話 日記
蓋を開けた先にあったのは、魔法のステッキだった。
プラスチックで作られた、少女アニメの玩具らしきものがそこにあったのだ。
あと、ビーズの首飾り、少女の食玩、お気に入りのDVD…
私は、雅苗かなえの心の奥に隠された、少女の秘密を暴いたような、居心地の悪さと、恥ずかしさを感じた。
見なかったことにしようか…。
蓋の背面を持ち直して、もう一度、元に戻そうと考えてから、私は違和感を感じた。
新しすぎるのだ。魔法のステッキのデザインが。
気になり出した私は、蓋の背面を床に置くと、意を決してステッキを取り出した。
花柄の飾りの宝石部分を調べると、それは、スライドの引き出しとしてとれるようになっていた。
中からは、本当の秘密、USBが入っていた。
私は、ホームズには及ばないが、『4つの署名』の依頼者ウィルスンよりは探偵の資質はあるらしい。
そこには日記が入っていた。
それを私は、見つけたUSBの文章に集中する。
人の日記を勝手に見るのは、なんだか申し訳ない気がするが、
逆に、自ら失踪したのなら、これを消去しないのも不自然な感じがした。
この本箱のからくりは、多分、雅苗の家の者なら誰でも知っているものだと思う。
雅苗は子供の頃に親にそれを教わって、秘密の宝物を入れていたのだろう。
だから、二度と帰らない予定なら、この宝箱の中身も処分したはずだ。
私は、7年前の失踪時の、雅苗の心のうちを覗きこむ。
憧れのスターと結婚したものの、冷めた関係になる女性の混乱する気持ちが綴られている。
に、違いなかった……が、ネットの噂なんてのは、所詮、いい加減な言いっぱなしの無責任な文章だと思いしった……。
パソコン画面に映る厚手の表紙に、可愛らしい魔法使いの少女の微笑むその日記帳を開くと、そこに記されていたのは、細かい文字やら、数字の羅列。
なんとなく、化学記号のようなものも端に書かれている。
なんだ、これは……。
雅苗の頭の中の世界がページを開くと私の頭に彼女の描く生物の世界が広がる。