51話 朴念仁
そう考えて、私は、かすかに頭の隅をかすめた考えに、恐ろしさを感じる。
まさか…
嫌な考えが、私の頭を、部屋を支配して行く。
コーヒーを飲んでクールダウンし、一度、別の事を考える事にした。
そう、研究と言えば、あのショクダイオオコンニャクについてレポートがない事だ。
これは違和感があった。
あと、溶生についての文章も見当たらない。
ファイルやレポートを見る限り、雅苗かなえと言う女性は几帳面で、思考の整理に紙を使うタイプに思えた。
もし、夫婦関係に悩んでいたとしたら、文字として問題を書き起こし、解決策を考えるタイプに違いない。
と、するなら、この二つに関わる書類やデーターは、何処かに隠してある可能性もある。
私は、10畳程の書斎を見回した。
隠すと言っても、恥ずかしいから見えないようにしているだけで、
いつでも記録できるように、簡単に取り出せるところに置いてある気がする。
特に、失踪した日は、ショクダイオオコンニャクが開花した日だ。
それについて、レポートをとらないなんて、あり得るだろうか?
いや、それはない。
ローカル局が交渉に来た事からも、職場でも話題になる事を想定していただろう。
そうであるなら、やはり、画像や大きさなど、記録に残そうとしたはずだ。
と、ここで、私は、大変な事を忘れていた事に気がついた。
そう、旦那、
冷たくなった夫婦関係と夫。
浮気の発覚を前にして、いくら絶滅危惧種でも、のんびり観察をするなんて、
あり得るわけがない。
はぁー。
私は、朴念仁ほくねんじんのKY男の自分を自覚して倒れそうになる。