48話 疑惑
7年前の今日、一体、何があったのだろう?
長山は、私に彼女の失踪の理由を見つけて欲しいと希望を言っていた。
それは失踪宣告を間近にした、奥さん側の親族の希望でもあるらしい。
そんなもの、探偵でもない私が探せるわけもない。
しかし、理由も理解できずに、財産を2年暮らしただけの男にもって行かれるのは奥さんの親族には受け入れがたいのだろう。
私は本棚に並ぶ青いファイルを何冊か取り出した。
彼女は大学と農業関係者の間で遺伝子組み換えや、益虫について研究していたようだ。
勿論、大学の仕事の情報は家には持ってこないだろうし、あったとしても、7年前に関係者が回収したに違いない。
ここにあるのは、私的な研究についてのファイルらしい。
情報を再確認する。
彼女の名前は 雅苗かなえ。
旧姓、北宮。
北宮きたみや 雅苗かなえ
この名前でネット検索しても取り立てて物凄いエピソードが飛びだしたりはしなかった。
ただ、父親も学者で、雅苗は、子供の頃から生物学に興味があったようだ。
あの温室のショクダイオオコンニャクは、祖父である北宮尊徳先生が頂いたものらしかった。
私はモニターで温室の蕾をちらりと見た。
それは、王室の門兵のように微動だにせず直立している。
隣のモニターでは長山達が、撮影の準備を開始したようだった。
彼らは、百物語をするらしかった。
百物語は、夏の夜100本の蝋燭ろうそくを灯し、人が集まって怖い話をし、1話終わ度にろうそくを1つ消してゆく怪談で、100話終わると辺りは闇に染まり、その時、霊が現れる…
なんて、言われる、夏のイベントだが、本当に幽霊が現れたりはしない。
少なくとも、私はそう信じている。
が、逆を信じる人間もいる。
今回は、若葉溶生がそれに当たる。
彼は、百語りの降霊術をしたいと提案したらしい。
失踪した奥さんが夢枕でそう言ったのだそうだ。
が、ここまで言われると、嘘臭さを通り越して作為を感じる。
失踪宣告の為の何かの伏線のような。
溶生を疑り、次の瞬間には、池で見た彼を思って自分に反論をする。
本当に彼は、私の好きだったアーティスト、若葉溶生なのだろうか?と。
が奥さんに危害を加えるなんてあり得ない。
では…妻である雅苗はどうだろう?
その答えのヒントが、この書斎のどこかにあるような気がした。