47話 真性
私は、スマホを急いで開く。
2019年…今年2月の事だ。アメリカの国際学術紙『jonrnal of Virology』に発表されウイルスだ。
日本の理系大学の武村教授が新種のウイルスを発見した。
それは、アメーバーを厚い皮を被った休眠状態にして寄生する特色を持っており、ギリシアの石化をさせる怪物メデューサにちなんで『メデューサウイルス』と名付けられた。
このウイルスは、アメーバに殻を作る遺伝子情報を伝える事で、宿主を石化させるのだ。
勿論、これは小さな最近の世界の話であり、人間を丸ごと石化を促すなんて、出きるはずもない……のだが、幻覚とはいえ、手に残るザラザラとしたような固い人間の肌の感触がよみがえり、恐怖が頭をよぎる。
ふと、秋吉の主演アニメを思い出した。
主人公の修二郎は、病気の恋人を感染させて、彼女の体を硬化させ、永遠のものにしようとするのだ。
これ事態は、小説としてよくある設定だ。
死んでしまった恋人を慕い、その姿を永遠に残したいと願う物語や事件は、昔から沢山ある。
それは絵画であり、彫刻であり、デスマスクであり、ミイラである。
ただ、寄生虫を使うとなると、珍しいと思っていた。が、秋吉の主演が決まった後に、このような発見がなされた事が不思議で、なんとなく覚えていたのだ。
「北宮くんは芸術家だよ…」
ふと、幻想の北川の声が耳に戻る。
それにしても……あれは、本当に幻覚だったのだろうか?
疑問が胸に沸き上がり、そして、ある仮説に心が凍る。
北川は言った。7年たったとは思えないと。
仮に、それが真実だとしたら…失踪したのは、若葉溶生になる。
まさか…な。
私は、おかしな妄想を笑って消した。
仮にそうだとしたら、現在、私に笑いかけ、あの新しい『輪廻円舞曲ロンド』を作曲したのは誰だと言うのだろう?
姿形を真似ることは出来たとしても、真のアーティストの偽の新曲を真性のファンの前で晒して叩かれないなんて、そんな事はあり得ない。
確かに、溶生の外見は変わった。が、あの『輪廻円舞曲ロンド』は、まさしく溶生の楽曲だと、私は確信していた。




