45話 ひぐらし
雅苗の書斎で、私はヒグラシの声を聴いていた。
ヒグラシ…蝉の一種で朝と夕方に情状的な鳴き声で郷愁を誘う。
信州の自然の中でその声を聞いていると、セミヤドリガを思い出す。
ヤドリガ…宿り蛾と言う名の通り、この蛾は寄生生物だ。
が、蝉に寄生する蛾は世界的にも珍しく、発見されたのは19世紀末、日本で、である。
しかも、発見者は民間の昆虫研究家、名和なわ靖やすし先生である。
民間とはいえ、明治、大正時代なのだから、それなりの家の人物ではあるが、それでも、失礼ながら大胆に分別すれば、ただの昆虫好きが、世界的な発見を果たしたのだから夢がある。
セミヤドリガの幼虫は、雪のような白い綿毛を纏ったイモムシ状の大人しい奴だ。
基本、宿主を積極的に殺したりはしない。
が、体液を吸われるので、それが元で亡くなる場合もある。
セミヤドリガには、ヒグラシに寄生するものの他に、ニイニイヤドリガと呼ばれる幻のヤドリガの記録があるが、1954年の報告以来、発見されてはいない。
日本は…蝉の宝庫だからなぁ…( ̄〜 ̄;)
そう、北欧には蝉は生息していない。
フランスでは、プロバンスが蝉の生息域であり、珍しい所から、ラッキーチャームにされている…。
ん?と、ここで、あの雅苗の栞の蝉を思い返した。
周期ゼミのコラージュ。
ふと、この蝉のコラージュではなく、ここに『寄生』している何かを調べろと言われている気がした。