41話 混乱
気がついたら温室にいた。目の前には心配そうな長山の顔がある。
「ながやまさん…ご無事でしたか。」
私は池での出来事を思い返して、胸が震える。
が、長山は、私の顔を見ながら不思議な顔をし、それから、笑いだした。
「ご無事…それは私の台詞ですよ。さっきから呼んでも返事はしないし、汗でぐったりしているし。」
長山は、打ってかわって真顔で私を見た。
「本当に、大丈夫ですね?熱中症が心配だから、10分過ぎたら部屋へ戻って下さいと言ったのに…。」
長山は、優しく私を責める。
「え?いや、私は池に!」
と、そこで私は、大切な事を思い出した。
溶生、溶生が溺れてたのだ。白濁として…体が石のように固く…
死後硬直
嫌なワードが頭をよぎる。私は、座り込んでいた地面から体を起こして立ち上がろうとした。が、うまく行かない。
そんな私の肩を押し、長山がクーラーからペットボトルのスポーツドリンクを私にくれた。
「熱中症ですよ。これを飲んで少し休んでください。なにか、気持ちが混乱されているようですから。
それに、仕事は全て終わらせて下さいましたから。」
「ダメです!池に…溶生さんが池で溺れてたんですっ。」
私は、スポーツドリンクをイッキ飲みする。気合いをいれなくては。
「池に、溶生さんが?」
長山が怖いものを見るように私を見た。
「そうですっ。溶生さんが伝説の泉で沈んでいたんですよ。私は、それをひきあげて……その場に倒れ、」
そこで私は、言葉を一度飲み込んだ。
長山は、私の言葉を信じていないことに、長山が私の人格を疑っている事に気がついたからだ。
それは、私も同じだった。私は泉で倒れたのだ。
「北川さん…北川さんを知りませんか?」
少し、間を置いて長山に聞いた。
長山は私を心配そうに見つめながら言った。
「北川さんなら、随分前に帰られましたよ。」