37話 泉
池が見えたところで、私は長山さんを呼んでみた。返事はない。
ため池は、伝説の池では無さそうなので、他を探さないといけない。
道の端の雑草の倒れ方や地面の足跡を探す。
そして、新しく倒された草はらを見つけると私は道を外れて歩き出す。
長靴を持ってきて良かった。蛭には長靴が最強だからだ。
しかし、林は歩きやすく乾燥し、池どころか、水溜まりすら無い状況だ。
長山の名前を呼ぶ。
反応はない。
しばらくすると、雑草の背丈が低くなり、代わりに雑木林になって行く。
少し登り勾配に道があり、私は、その道を上に向かって歩く。
ブナの木の幹の太さに、尊徳先生との関係を推し量る。
もしかしたら、この木々は、尊徳先生の遊び相手なのだろうか?
くぬぎやブナがあり、適度に降り積もった落ち葉や落木に甲虫の…オオクワガタ発見の予感が漂う。
いい感じに腐敗した落木をほじくりたくなる気持ちを押さえ、私は、さらに先に行く。
そろそろ、腰のロープに付加を感じた。
もう少し歩いて見つからなければ、一度、北川の所へ帰ろう。
私は歩く。少し勾配がきつくなり、そこを越えたとき、見えた光景に思わず立ち尽くす。
それは、杉の林に広がる幻想的な泉。
私の立ち位置より1m低い盆地を澄んだ湧き水が広がっていた。
その時、確かに私は伝説の池を見つめていた。