35話 池の伝説
「雅苗さんを探しに…ですか?」
私は、自分の気持ちを落ち着けながら北川に聞く。
北川は私を見ながら優しい目をした。
「はい。当時は大変でしたよ。まるで…長山さんが雅苗さんの旦那さんじゃないかと間違うほどに、この近辺を探していました。」
北川は切なそうに目をほそめる。
「この近辺を…ですか。」
私は、その言葉に違和感を感じた。
何故なら、ネットの噂では、溶生ときおさんの浮気に雅苗さんが嫌気が指して失踪したと考えた親族が失踪届けを出すのが遅れた…となっていたからだ。
遠方を探さないと言うことは、事故を疑った…と、言う事だろうか?
「そうです。何しろ、溶生さんの状態が尋常ではありませんでしたから、なにがしかの事故を疑ったのです。」
北川は昔を思い出すように目を伏せる。
「インターネットでは、雅苗さんが自らの意思で失踪したと考えられていた…と書かれていましたが、違うのですね?」
私の問いに北川はふっ…と軽く笑って答える。
「ネットの情報など…そうです。当時は、災害が多かったですし、7年の歳月を世話をして来たショクダイオオコンニャクの開花を前に消えるなんて、考えられませんから、
それに、溶生さんは芸能人ですから、警察も事情聴取に来ましたよ。
と、言っても、地元の警察ではありませんでしたけれど。
あれは……私が考えるにマトリ、と、呼ばれる人たちなのかもしれませんね。」
「麻薬取締官……。」
私は唇を引き締めた。
出発時の話を思い出していた。
彼は、世紀末にも薬物乱用を疑われていた。
「まあ…そんな風には名乗りませんでしたが、都会から来た、精鋭…と言う雰囲気のスーツ姿の人達が色々と聞いていました。」
北川は思い出すようにゆっくりとそう言った。
「でも、薬物反応はなかったのですね?」
「はい、そして、部屋は中から鍵がかかっていたので、事件性は否定されたのです。
それで、雅苗さんについてもある程度、近辺を探して、事件性がないと判断されたのです。
けれど、あの雅苗さんが温室の扉を開いたまま失踪するなんて考えられませんから、事故に違いないと長山さんが最後まで探していたのです。」
北川の話を私は黙って聞いていた。
「7年ごとに現れる池の伝説…ショクダイオオコンニャクが咲く今年、やはり、伝説の池の妖怪もやって来るのでしょうか?
やはり、その話を聞かせていただけませんか?」
私は、北川に強くお願いした。
「そういわれましても…単純な言い伝えですよ。
7年後とに竜神様のワタリがあり、土地の水神が竜神様の休まれる池を作り、それをもてなすのだとか。
で、それを見た人間は、神の世界につれて行かれる…そんな感じの話です。」
北川は短くてすまないと、そんな感じに髭に隠れた口角を上げる。
北川の顔には嘘はないと感じた。が、それと同時に、胸の辺りからある予感が膨らむのを感じる。
「尊徳先生の……北宮尊徳先生の池についての……いえ、関係ないものでも資料はありませんかっ?」
私は叫んだ。
昆虫だ!!
ムシがよんでいるっ。
これは、虫が関係しているに違いない。
予言めいた直感が、私の心をときめかす。
読んでくれてありがとう。
流石に2年目の改変なので、アクセスを見ると嬉しくなります。
とりあえず、一度は完結を、頑張りたいと思います。