33話 疫学者
ノストラダムス…疫学者としてのノストラダムス。
私は、混乱しながら長山を見つめた。
「どういう事なのでしょうか?」
私の質問に長山は首を横にふる。
「詳しくはわかりません。ただ、私が雅苗さんとプロバンスで話したときに、そんな話になったのです。」
長山の話では、ノストラダムスの時代…16世紀のヨーロッパでは、ペストが流行したらしい。
1520年、大学がペストで休校になり、薬草の採取などをしながら放浪し、1529年モンペリエ大学医学部に入学した…と、されている。
2010年、偶然、プロバンスで雅苗と再会した長山は、2011年のテレビの特番の取材の話をおもしろおかしく雅苗き語ったのだそうだ。
雅苗は、2012年の滅亡話やノストラダムスのオカルト話には、昔から興味は無かったようだった。が、長山の話には食いついた。
私が思うに、長山は雅苗の気を引くために必死に面白おかしく話したのだろう。
「雅苗さんは、はじめ、ノストラダムスの予言の話など、なんの根拠もないデタラメだと笑いました。」
まあ、な( ̄〜 ̄;)
私は、長山の話を聞きながら頷いてしまった。
まあ、普通はそうだろう。
「まあ、そうだろうね。本当に世紀末とか、大変だったよ。」
と、言いながら、それは、コンピューターの関係だったかな?と、曖昧な記憶に問いかけてみる。
「そうでしたね。雅苗さんも子供の頃はオカルトとか、怪談が好きでしたよ。
この屋敷にも、色々な怪談がありますし、昔、そんな話で脅かされたのは、私の方でした。」
長山は、目を細めて照れたように口をつぐむ。
「池の女性の妖怪とか?」
私は、あの白昼夢を思い出していた。
レイ…印象的な女性の幻。
「池…行ったんですか?」
長山は、少し驚いたように私を見る。
私は、その様子に好奇心が沸いてきた。
「はい。秋吉に誘われて、昼に池に散策に…。あの…今日の番組で池の話とかありますか?」
私は、昼の池での事を思い出す。あの幻想の女性が実在する期待がこもる。
「ありますよ。あそこはスピチュアルポイントなので。」
「じゃあ、もしかして、サプライズで、妖怪役の女優さんが隠れているとか、ありますか?」
私は、早口で長山の次の言葉を奪う。レイ…彼女は実在するのだろうか?
「ありませんよ。女優さんなんて、雇えるほどは予算ないですし…」
と、長山は私を見る。それから、心配そうにこう続けた。
「大丈夫ですか?何か、顔色悪いですよ。」
「はい、大丈夫です。」
私は、気持ちを引き締める。
「どうしたんです?いきなり、女優さんだなんて。」
長山が不思議そうに私を見た。私は、長山の瞳に励まされるようにこう聞いた。
「昼に、あの池で綺麗な女性に出会ったんです。
その人は、今晩の番組にサプライズで出演すると言ってました。」
私の言葉に長山は、予想以上の動揺を見せた。
「それ…名前は、名前、名乗っていましたか?」
長山は、私に食いつくように迫ってくる。
私は、その様子に少し驚きながら素直に答えた。
草柳レイと。




