25話うわさ
不気味な方向へと進む話を私は不思議な気持ちで聞いていた。
初夏と言うより真夏に近い暑さに汗が全身に滲む。
秋吉は話し続けた。
「世界から集められた生物をこの場所で育成していたようです。
生態系など、あの時代には重要とは考えられていなかったのです……。
それどころか、軍は人の死体を貪り、繭を作る昆虫すら探してしたくらいなのです。
戦争になれば、死体の山が出来ますし、それを処理すると言う面でも利があったのでしょう。」
秋吉の美しいテノールが風にのって野原を湖面を広がって行く……
遠くから金属の軋むような、人外の何かの悲鳴のような音が響いた……
終末音…アポカリプスサウンド
ふと、そんな言葉を思い出し、そこで意識がプツリと消えた。
「大丈夫ですか?」
涼やかな女性の声が聞こえて、私はテーブルから頭を持ち上げた。
ぼうっとする頭を軽く振り、声のする方を見ると、そこには20代らしき華奢な女性が心配そうに私を見ている。
「はい…すいません、なにか寝てしまったようで。」
私は少し酔ったような気持ちで薄ら笑いを浮かべて間抜けな返答をした…事に気がついて慌てる。
「いや、その、すいません。散歩ですか?すぐどきますから。」
私は、早口でそんなことを言いながら立ち上がろうとした。が、女性はそれを止めた。
「まだ、動かれない方がいいかもしれません。もしかしたら、熱中症かもしれませんし…。」
女性は心配そうに私の左肩に触れた。
ドキリとした…
そして、彼女の笑顔の眩しさに目を細めた。
フローラル系の甘い香水の香りが、胸を心地よく締め付ける。
レモンをかじった時のような、キュッとした甘い…恋の痛みのような痺れが体を巡る。
「熱中症……そうでしょうか?」
私は、火照る頬の熱さを熱中症のせいにした。
けれど、この10代の恋を思い出すような、不思議な気持ちも、フェイクだと思ってもいた。
「すいません、私は、この先の北宮さんのお宅に伺っていまして、池上と申します。
失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
私は、仕事の話はあえて隠した。女性は文字通り、輝く笑顔で頷きながら
「レイ。皆、私をそう呼ぶの。」
そういった。